陽気なイエスタデイ

donviajero.exblog.jp
ブログトップ
2009年 03月 23日

超短編小説 『錯覚』

高層ビルに囲まれ、ほとんど陽が当たらない暗い土地に、
一風変わった7階建てのマンションが建った。
どうやら、この辺りでも有名なA不動産会社の
社長の肝いり物件らしい。
不思議なことに、その建物には出入り口以外窓が一切ない。
当然、社長自らセールスに当たっている。
売り出し文句はこうだ。
≪陽当たり良好!閉所恐怖症・高所恐怖症の皆様には最適な物件です!≫
しかし、なかなか契約数が伸びないらしい。

日曜だというのに誰もショールームを訪れない。
社長は手持ち無沙汰の警備員と話しこんでいる。
午後の陽も傾きかけたころ、一人の男が一階の受付に現れた。
「部屋を見せて欲しいんだが‥‥。」
「はい!それでは二階のモデルルームにご案内します。」
社長は男を伴ってエレベーターに乗り込んだ。
スイッチ盤には一階、次は二階しかない。
ただし、二階の表示には2-①、2-②‥とそれぞれのボタンがある。
社長は2-⑦を押した。
エレベーターが停まり、モデルルームの入り口が開けられると、
そのリビングの広さと天井高に客は圧倒された。
「なんて広い部屋なんだ!20畳はあるかな?」
「いいえ、とんでもございません!その半分ぐらいです。
 いろいろな視覚の錯覚を利用しておりまして‥‥。」
「ほう、なるほど!この天井が高く見えるのも‥そうか‥。」
「閉所恐怖症の方には喜ばれております。」
「ちょっとベランダから外を覗いてみてもいいかな?」
「よろしいですよ!」
そのとき、社長の携帯が鳴った。
「ちょっと失礼!」
客に背を向け、なにやら豪勢な会話が聞こえてくる。
男は一人でベランダへ出て行った。
-なんて開放感のある広さだ!しかも直ぐ階下には目の覚めるような
 青々した広い芝生‥‥-
人工太陽光が燦々と降り注いでいるのだ。
通話を終えた社長が部屋のなかから弾んだ声で、
「どうですか?」
「なかなかすばらしいマンションですね!」
そう言いながら社長のそばに戻った男の手にはナイフが握られていた。
「オレはこういうものだ!」
「あれ?ナイフ屋さんですか?」
「ふざけるんじゃねぇ!お前がこのマンションのオーナーだって
 ことは判っているんだ!さぁ!金を出せ!」
社長は素直に分厚いサイフを差し出した。
「ほ、ほぉ!さすがこれだけのマンションを建てる社長さんだ!
 結構持っているじゃねぇか!」
男はすばやく中身だけを抜き取りベランダへと走り出した。
「あのぉ~、入り口はあっちですよ!」
「ばっきゃろぉ~!入り口には警備員がいるじゃねぇか!」
そう言ってベランダの柵を乗り越え飛び降りた。
「ぎゃぁ~~~!」
男の悲鳴がマンション全体に響き渡った。
「やれやれ、高所恐怖症の方のために、一階以外すべての階を
二階のように工夫したのに‥‥」

by don-viajero | 2009-03-23 20:59 | 超短編小説 | Comments(2)
Commented by riojiji at 2009-03-28 17:05 x
「錯覚」ね~~
2-①、2-②‥で何となく先が読めて、
「いろいろな視覚の錯覚を利用しておりまして‥‥。」・・は要らないかな?と・・・視覚の錯覚の説明会話は無くし、ベランダ・・にもって行く展開が、おもろいかな?そんな気がします。てことで・・・
星 一つ~~~~~すんまへん(笑)
Commented by DON VIAJERO at 2009-03-29 16:50 x
いまいちの作品でしたね!
題材を変えて「錯覚」、再チャレンジしてみます!


<< 体育教師      錯覚・Ⅱ >>