陽気なイエスタデイ

donviajero.exblog.jp
ブログトップ
2009年 11月 18日

超短編小説 『無人の村』

そこは誰もいない村だった‥‥。

松茸がよく採れるという地方へ、二時間かけて車を走らせた。
初めて訪れる山だった。

まだ薄暗いなか、迷わぬよう気を使って登って行った。
やはり、一本も見つけられない。
私が住む地域もそうであったように、ここも不作の年なのだ。

尾根まで駆け上がり、反対側の谷底を見下ろすと、
桃源郷のような小さな集落があった。

茅葺きのものもあれば、秋の朝陽に照らされ、
キラキラ輝くトタン葺きの屋根もあった。
その数、十数軒だろうか‥‥。
私はその小さな集落に惹かれ、一気に降りて行った。
集落の真ん中を走る狭い舗装道路に出た。

すべてが周りの景色に溶け込んでいるような場所だった。
弾む息を整え、耳をそばたてた。
人の声ばかりか、犬や猫の鳴き声もまったくない。
光と風だけが目立ち、すべてが抹殺されたような澱んだ
空気をかき混ぜている。
所々に、たわわに実った柿だけが青空に映えていた。

急勾配の舗装道路をゆっくり歩いて行った。
点在する両脇の家々を一軒一軒覗いてみる。
「こんにちは!‥‥誰かいませんかぁ?」
返事はない。

集落のなかを流れる川のせせらぎだけが異様に響く。
まるで、生きし者残らずUFOにでもさらわれてしまったような‥‥。
あまりの不気味さに、後ろを振り向かず、元来た尾根を這い上がり、
車まで戻った。

その集落が近い将来、下流のダム建設によって
沈みゆく運命を知ったのはしばらくしてからだった。

by don-viajero | 2009-11-18 20:04 | 超短編小説 | Comments(0)


<< 赤とんぼ      ニングル >>