陽気なイエスタデイ

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2010年 05月 06日

お金

その地上53階建てのビルができたころは、最上階にある
展望フロアーに一度は上がって、東京の夜景を見ようと
思っている人々で一杯だった。いまでは新たにできた隣接する
80階建てのビルに人々の関心は移ってしまい、物見遊山で
そのビルに入る者はわずかだ。
途中、51階、52階にあるレストラン街に停まるだけの
直通エレベーター内には私一人しかいなかった。

密室の壁に張られた広告類から視線を滑らせ、足元を見た。
100円玉が一つ転がっている。腰を屈めそれを拾い上げ、
そのままの姿勢で辺りを見回す。
-あった!あった!‥‥!-
開閉口のわずかに窪んだ場所に、100円玉や500円玉が
あるわ!あるわ!
気がつけば、ズボンの両ポッケが膨れ上がっていた。

まだまだあるコインを拾い上げる前に51階で
-チ~ン-と音がして、扉がす~っと開いた。
ピカピカの長靴を履いた禿げ頭に腹の出たおっちゃんと、
厚手の膝掛け毛布を煽った車椅子のおばちゃんがいた。

「おっ!ちょうどえぇ!兄さん!頼みがあるんや!」
「???えっ!‥頼みって何ですか‥?」
「ワテなぁ、腹減って、腹減ってもう倒れそうなんや!
 ほいでな、ワテはすぐにでもなんか食べたいんや!
 兄さん、展望フロアーまで行くんやろう?
 ほな、ワテのカミさん連れてってくれへんか?」
一方的に喋り捲る大阪弁に気圧され、
「そんなことなら、構いませんが‥。」
「ほな、決まった!頼むでぇ!」
目を落とせば、静かに笑みを浮かべた温和そうな夫人が、
「よろしくお願いします!」と言って、ペコリと頭を下げた。

51階から53階までゆっくりと上昇するエレベーター内で、
その夫人がゆさゆさと膝掛けの毛布を揺らしていた。
53階の扉が開く。車椅子を押して出ようとする足元には、
今度は、夏目漱石やら福沢諭吉の札が無数に落ちていた。

*「お金を拾う」夢判断‥新しい愛を求めている表れ。
 だそうです。そんなに愛に飢えてはいないんですがねぇ‥。
 若いころは、鉄棒の下の砂場にコインがザクザクある
 夢をよくみたんですが‥‥。

by don-viajero | 2010-05-06 20:07 | | Comments(0)


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