陽気なイエスタデイ

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2010年 06月 10日

超短編小説 『ボタン』

「大統領!いますぐにでもボタンを押しましょう!」
落ち着き払った相手に、彼は執拗に迫る。
「我々が優秀なことを思い知らせるべきです!
 あんなゴミども、この世から抹殺すべきです!」

彼のすべての悲壮感を背負った言葉にも、同調することなく、
私は黙ったままスイッチに指をかけている。
「さぁ、大統領!ボタンを押して下さい!
 我々民族が滅ぼされる前に先手を打つのです!
 彼らを放っておいては、我々はいつの日か侵略されるのです!」
「‥‥。」
「さぁ!一刻の猶予もありません!あいつらはすでに東京湾を
 侵略しています!東京湾がなくなってからでは遅いのです!」

私は壁にかかった電子時計を見る。
時刻は10時になろうとしていた。
「ねぇ、点火ボタンは押すけどさぁ‥‥。
 田中君!君がSFオタクだってことは分かるよ!
 でも、いちいち焼却炉の点火スイッチ押すたびに、
 そういうの止めてくれないかなぁ‥‥。
 清掃局での点火時間は10時って、決まってるんだからさ!」

by don-viajero | 2010-06-10 20:02 | 超短編小説 | Comments(0)


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