陽気なイエスタデイ

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2010年 08月 08日

超短編小説 『完全犯罪』

犯罪成立の三大要素。
アリバイがない。動機がある。証拠がある。

私は推理小説が大好きで、図書館にあるその手の本は
ほとんど読破したといっても過言ではない。
シ~ンと静まり返った室内で、こうすれば完全犯罪が
成り立つのにと、ブツクサ独り言を呟くのが常である。
同じテーブルの読者たちからは、いつも「シ~」っと
唇に人差し指を立てられる始末だ。
ただ、小説には必ずオチがあり、そうなったのでは
物語として完結しないだけである。

今日も、ポツンと木立の下の涼しげなベンチに腰掛け、
先ほど図書館で読み終えたばかりの小説を反芻していた。

突如「ひゃぁ~!!!」と大声をあげ閃いた。
自分の感極まった声に驚いて辺りを見渡したくらいだ。
近くには誰もいないし、遠くに坐っているアベックたちを
含め、誰も私に気付いていない。

私は誰も傷つけず、被害者にさせずに大金を手にする
ことのできる完全犯罪を思い立ったのだ。
アリバイは完璧。動機もない。証拠もない。
しかし、その思いを紙に残しては証拠になってしまう。
足元を揺らし続けるパズルのような木漏れ日の隙間を
一つ一つ埋めるように、じっくり時間をかけ、手順を追い、
独り言を夢中で繰り返し、反復する。

「よし!完璧だ!
 Where there's a will, there's a way! だ!」
(精神一到何事か成らざらん)
軽やかに得意の英語まで口から飛び出す。
目を閉じ、頭上の梢を行き来する小鳥たちのさえずりも、
私のストーリーに対し賞賛の歌声のように響き渡り、
その犯罪を遂行する前に一人悦に入っていた。

突然、後ろからそっと肩を叩かれた。
「もう少し詳しいことを、
 署で聞かせてもらえますかね?!」

by don-viajero | 2010-08-08 12:53 | 超短編小説 | Comments(0)


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