陽気なイエスタデイ

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2010年 08月 27日

屏風岩・Ⅱ

一ルンゼ上部で滑落してから二ヵ月後の8月末、『餓鬼』の
仲間N氏と、再びこのルートをチャレンジしていた。

前日の天気予報で台風は山陰を抜けたというのに、一向に
治まらない雨のなか、ときどき落ちてくる小石を避けながら、
足元の滑りやすい岩を慎重に登っていた。

大天荘にいる仲間のY氏とトランシーバーでの定時交信は
何度やっても不通。我々はルンゼの途中、岩の奥にツェルト
一張り分だけのスペースを見つけ、取りあえず登攀を中止し、
天気の様子を窺うことにした。

相変わらず雨も止まず、小石どころか頭大ぐらいの岩まで
ゴロンゴロンと不気味な音を近づけ、落ちてくる。
すっかり暗くなっての8時。ようやくY氏との交信ができた。
なんと彼は決めていた交信時間中、小屋の連中とずっと
‘大貧民’をやっていたのだ。しかも悪いことに台風は
日本海に抜けたあと、Uターンしてその時点で神戸付近だと。
「明日、見計らって撤退すべき!」と進言されてしまう。

夜中、二時間おきに場所を交代する。もちろん奥のほうが
はるかに安全だ。N氏が表側のとき大きな岩が当たり
ツェルトが破ける。幸い怪我はなし。

翌早朝、小雨のなか撤退を始める。
-どうか、でっかい岩が落ちてきませんように‥‥-
祈るように、止めどなく落下してくる小石をヒョイヒョイと
軽業師のようにかわし、ザイルを伝い懸垂下降を何本も
繰り返す。

安全な場所まで無事到着。次回からは使えそうにないほど
ところどころ傷んでしまい、ビショビショで重くなったザイルを
仕舞い、二人で複雑な思いを抱きつつ無言の握手をする。
まつげから零れ落ちる雨粒越しに、また撤退する羽目になって
しまった、雨霧で霞んだルートを見上げる‥‥。

しかし、翌年の二月、私は懲りもせず再びここでこの雪の
張り付いた一ルンゼを眺めていた‥‥。

by don-viajero | 2010-08-27 20:18 | | Comments(0)


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