陽気なイエスタデイ

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2010年 10月 26日

山の野生児

中学の集団登山以降、山なんか登ったこともない男。
春、町営の山小屋赴任を命じられた地方公務員の
その男は、途中、挨拶に寄った燕山荘の長老たちに
手荒い酒を飲まされ、目的の小屋直下で真っ暗に
なってしまい、ハイマツの中に枝を敷き詰め一夜を
過ごした。辺りは雪に覆われた世界だ。

その男は、山小屋でのアルバイトで知り合ったK君。
彼は中学一年のとき、私が応援団長だったことを
覚えていた。

いつも白い長靴を履いて飛び回り、まだ小屋の周りに
雪が残る時期、素足を投げ出し、長靴を逆さまにして、
ジャーっとなかに貯まった水を出していた。

私と同時期にバイトに入っていた、K君の高校時代の友人、
S君とともに、それぞれ当時お気に入りのアイドル名で
トランシーバーの交信をした。
「は~い、こちら水場のナナちゃん!
 ヒロミちゃんに代わりま~す!」
「こちら、小屋のセイコちゃんで~す!」

雨が降れば、小屋のなかで卓球、大貧民、将棋は
何百回となく指した。二人して下界に降りた折には
夜中、中学のプールに忍び込み、ウィスキーを
煽りながら泳いだこともあった。

夏の最盛期も過ぎ、山の斜面の雪がすっかり溶けて
消えたころ、登山客から、東側の斜面にヤッケらしい
ものが見えると言う連絡を受け、K君とでガラ場を
降りていった。そこにはシャレコウベに少しだけ毛髪を
残した『お六』が転がっていた。
前年11月、燕山荘を出て行方不明になった登山者だ。
「こいつ、いい靴履いてやがる!」そう言って靴を例の白い
長靴で蹴ると、なかから蛆虫がワっと這い出てきた。
そんな、不埒な行為にバチが当たったのか、その遺体を
彼が里まで背負子で下ろす羽目になってしまった。

35年も前のセピア色に褪せた記憶の一つ一つが、一瞬にして
鮮やかに彩られ、目くるめく甦ってくる‥‥。

S君は5年前、そして一昨日、そんな野生児だったK君が
家族を残し、病魔には勝てず、鬼籍に入った‥‥。

                                合掌

by don-viajero | 2010-10-26 20:08 | | Comments(2)
Commented by riojiji at 2010-11-01 05:54 x
「やっぱ、男は矢沢せ~」と・・・
米炊きの圧力釜に、愛用の白い長靴を片方乗せ、ハイライトを燻らせていたK君。

逝ってしまった・・・・・・・・・・・・・
                         合掌
Commented by DON VIAJERO at 2010-11-01 19:41 x
K君=白い長靴&ハイライト

もう、山小屋に巣くう猿みたいに元気な
奴だったもんなぁ・・・。
あんな元気はなくとも、もう少し
元気でいたいものだよね!!!


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