陽気なイエスタデイ

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2011年 06月 26日

銭湯

「お~い、行くぞぉ~!」
夏の夕刻は明るい。
ビシッと角帯を締め浴衣着姿の父は、カランコランと
雨で穿られた凸凹の砂利道を歩いている。ちょっと
前まで外で遊び呆けていた僕は、そんな父に
纏わりつくように、生意気に団扇で火照った体を
煽りながら付いてゆく。

開けっ放しの入口に吊るされた暖簾が、ゆらゆらと
誘うように揺れている。中からほのかに匂ってくる
石鹸の甘ったるい香り。女親分のような厳つい顔で、
いつもの番台のおばさんが「ぃっらっしゃ~い!」
一番混む時間帯だ。これから入ろうとしている者、
上がったばかりで裸の肌を赤く染めている者。
みんな見知った人たちだ。父が普段から可愛がっている、
従兄弟同士で二人の知的障害者が、賑やかに喋っている。
交通事故で片足の膝から下を失った『シンちゃん』が、
起用に義足を外しながら父に気付き、
「おいちゃん!おいちゃん!」と弾んだ声をあげる。
『シンちゃん』の姉さん『き~ねいちゃん』が、やはり
知的障害者の妹を抱え、一人で取り仕切り、出前しか
やっていない寿司屋の出前持ちだ。
ラーメン屋の出前持ち『アジャジャのかずぼ』も
「おいちゃん!坊~も一緒だね!」と寄って来る。
いつものように、繰り返される裸の付き合い。
「とうちゃん!風呂上りにアイスクリーム買ってよね!」
「あぁ、わかった!」

銭湯の向かいにある『花月堂』の入口にで~んと構えている
アイスクリームボックスを覗き込む。僕は迷うことなく
『当たり』のあるホームランアイスを握る。
舐め終えてスティックに『ホームラン』の文字があれば、
おまけにもう一本。『ヒット』の文字だったら、4本集めて
一本貰える。ゆっくり舐めながら家路につく。

‘せぎ’の近くでは、すっかり暗くなった夜道を無数の
飛び交う。畑の立派な葱坊主を一つ頂戴して、団扇で落とした
蛍を入れ、蛍提灯にする。

「ただいま~!」二階に上がり蚊帳のなかへ捕まえてきた
蛍を放つ。裸電球を消して、敷かれた掛け布団の上に座り、
蛍の軌道を眺めている。「ご飯にするよ~!」母の声が、
狭い階段の空間を駆け上がり気持ちよく響いていた。   

by don-viajero | 2011-06-26 05:08 | | Comments(2)
Commented by riojiji at 2011-06-26 05:59 x
ほのぼのした 夢を みましたね~(笑)
蚊帳の中に 蛍を 逃がして遊んだ 小さい頃を 思いだしましたよ。
蛍と言えば、この間 深夜便で言ってたけど、米国の首都ワシントン
では 木々に 蛍が 飛んできて、クリスマスツリーみたいに
なるんだって!ちょっと 驚きや・・
Commented by DON VIAJERO at 2011-06-26 06:32 x
この前、蕨採りのとき話したかな?
この夢にはしっかりした伏線があったことを・・・。
後日談で書くつもりです!


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