陽気なイエスタデイ

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2012年 08月 12日

『記憶の真実』

誰もいない、微睡(まどろ)んだ午後。

読みかけのものや新たにページを捲る数冊の本を、椅子の
傍らに置く。しかしこの日はどうしたことか、何を読んでも
頭に入らず、ただ文字の列がアリンコの行列みたいにぞろぞろ
通過してゆくだけだった。そっと本を閉じ、遠い過去を探るように
宙を見つめ、静かに瞼を落とした。

いつの間にか、まるで魔法にでもかけられたみたいに、鼻の穴から
漫画の吹き出しの“ZZZ”マークが出ているんじゃないかと思える
ぐらい爆睡していたらしい。

階下からボンヤリした声が聞こえる。
「宅急便で~す!」
急いで階段を駆け降りる。上がり框に小さなダンボール箱が、
ちょこんと置かれていた。送り主の名は知らない人物。空ろな
回路のまま箱を解(ほど)く。単行本『思い出したい記憶』。著者名を
見て驚いた。そこには私の名前が刻まれていた。

年代を追って、克明に私の歴史が記されている。黒く塗り
つぶされた行以外は、楽しかったと思われる事柄だけがある。
それは単なる出来事だけに収まらず、その時々の感情までが
載っているではないか!

知らず知らず時間が過ぎてゆくなかにあって、日めくりが風に
吹かれてパラリと一日前に戻るみたいな、そんな鮮やかな記憶
なんか無い。でもその本の中身は自分でも驚くほど鮮明なもの
だった‥‥。

「宅急便で~す!」
あまりにも大きな呼びかけに、ドキっと目を覚ます。階下に降り、
玄関を開けるといつものにこやかな宅急便屋さんが、
「Mさん、Amazonから届きましたよ!」思い出した。
確か注文したのは、榎本博明著『記憶はウソをつく』だ。

by don-viajero | 2012-08-12 12:28 | 超短編小説 | Comments(0)


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