陽気なイエスタデイ

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2008年 04月 06日

『故郷・Ⅰ』

数軒の朽ち果てた家屋の屋根には、いまにも押しつぶして
しまうのではないかと思われる大量の雪が積もっている。
山々に囲まれた僅かばかりの平らな耕作地であっただろう
段々田は、こんもりと白いものに覆われている。
獣の足跡だけが点々とある。誰もいない、静かな朝を迎えた
辺りには墓石の倒れたものやら、頭部のない地蔵がポツンと
異彩を放っていた。そこは無人となった集落の冬。
眩(まばゆ)い光のなか、私はファインダー越しから覗いていた‥‥。

部屋の窓から差し込む、啓蟄(けいちつ)を過ぎた穏やかな朝日に
目覚めされた私は、今見たばかりの夢を追っていた。
-たしか、長くてへんなトンネルを抜けたらその集落があったんだ。
 はたしてそんなところへ行ったことがあったのだろうか?
 あの両脇に掘られていた得体の知れない群像。
 あれは一体なんだったのだろうか?-

遠い昔、小学校二年生ごろか。父が育った故郷のことを
話してくれたことがあった。そのころから祖父は、その集落が
いずれ誰一人いなくなることを悟っていたらしい。
うろ覚えの父の話だと、
「お父さんが小さいころ、お前のおじいちゃんとで
 ある場所に二人の大事なものを埋めたんだ。」
「ふうん。その大事なものってなぁに?宝物なの?」
「そう、宝物かも。それは見てからの楽しみにしておこう。
 お父さんもその中身は知らないんだ。多分“あれ”だとは思うが‥‥。
 あの集落が朽ちて雑草が生い茂り、隠し場所がわからなくなる前に、
 いつかお前と一緒に掘りに行こう。これは死んだおじいちゃんと
 お父さんとお前だけの秘密だぞ!」
「うん!わかった。楽しみだね!」

そんな話を聞かされて間もなく、父は交通事故で早世した。
この話を母に訊ねても父から聞いたことはないらしい。
しかも、母は父の生まれた場所へすら行ったことがない。
それ以来、その『宝物』のことはすっかり忘れていた。

最近耳目(じもく)する「限界集落」という言葉が、私の奥底に
眠っていた記憶を呼び覚ましたのかもしれない。
 

by don-viajero | 2008-04-06 07:32 | 超短編小説 | Comments(0)


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