陽気なイエスタデイ

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2008年 04月 06日

『故郷・Ⅲ』

小さなプラスチックの箱を携え、暗いトンネルを歩いていると、
再びあの歌を唄っていた。
岩肌には、村人たちが祭りで踊っている姿が映し出され、
私が吐き出す大きな歌声は、次第にトンネルのなかで反響しあい
合唱となって聴こえてきた。、まるで村人たちの歌声となって‥‥。

家に着いた私は、やはり小学校一年のとき書いた作文を探した。
-どこかに仕舞っておいたはずだが‥‥
 そうだ!ひょっとしたら父の遺品のなかにあるかもしれない!-

そこには『宝物』と記された未開封の白い封筒があった。
開けてみると、それは私の「故郷」という題の作文だった。
なつかしい文字で綴られた「故郷」は、祖父や父とは違う場所では
あるが、明らかに私が生まれて育った、幼いころのこの地への
想いであった。

数日後、保育園に通う一人息子にそっと耳打ちした。
「今度、二人で庭に穴を掘ってタイムカプセルを埋めよう!
 そのなかには亡くなったお前の曾おじいちゃん、おじいちゃん、
 そしてお父さんとお前だけの秘密の宝物を入れよう!」
「秘密の宝物?でもボクのDSはいやだよ!」
「そうか!お前の宝物はゲームだよな。でも心配するな。
 それはきっといまのお前には宝物なんかじゃないよ!
 しかし、大人になったとき、それは宝物になると思うよ!」
「ふうん。そんなものボク持っているかなぁ?」
「まぁいいさ!大きくなったら掘り返してみればいい!」
「うん、わかったよ」

大都市のビル群に沈む真っ赤な夕日が、整備された河川敷の
歩道を並んで歩む私と息子の背を暖めていた。
そして、また口ずさんでいた。

♪うさぎ追いしかの山 小鮒釣りしかの川
 夢はいまもめぐりて 忘れがたき故郷

その歌声は、爽やかな春の風とともに川を渡り、私の住む町の
彼方へと吸い込まれていった。
                             (完)

by don-viajero | 2008-04-06 08:19 | 超短編小説 | Comments(0)


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