陽気なイエスタデイ

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2008年 06月 10日

超短編小説 『時の扉』

市のホームページを開いている。
我が市では今回、面白いシステムを開発し、
閲覧できるようになったのだ。

1950年代から概ね10年おきに、当時の路線図上に
市民から借り受けた写真をもとに編集し、
見たい時代のポイントをクリックすれば懐かしい光景が
現れるというものだ。

私は60年代のものを見ていた。
そのほとんどは色褪せたセピア色。
それは遥か遠い昔を彷彿させるのに十分な色合いである。

駅から続く無舗装のデコボコ道は細く、人家も疎ら。
忘れかけていた景色や顔も出てくる。
-なんて長閑なたたずまいなのだろうか!-
一つ一つ捲って、思い出が一杯詰まった昔の我が家に辿り着く。

玄関前にあった大きなクルミの木の下で、
若い父と母、おかっぱ頭の姉、みそっ歯で笑っている私がいた。
-そうだ!この木の下を流れる小川には
 沢蟹やドジョウがいっぱいいたんだ!-

マウスを移動してその小川を覗いてみた。
そこには大きなナマズが眼を見開いてこちらを睨んでいた。

-グラッ グラッ-
-地震だぁ!-

微かに家が揺れた。目が覚めた。
つけっぱなしのラジオからは
アコーディオン奏者cobaの「時の扉」が流れていた。

by don-viajero | 2008-06-10 20:21 | | Comments(0)


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