陽気なイエスタデイ

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2008年 07月 20日

超短編小説 『秘薬・Ⅱ』

翌朝、庭に出るとあの木は元に戻り、何事もなかったかのように、
いつもと変わらず、しがみつくようにヒグラシが騒いでいた。

早速、近々25歳になる孫娘の誕生日祝いに、
買い置いていた素敵な洋服を箱から取り出した。
鏡に向かい老いた身体に当ててみる。
とてもじゃないが見られたものではない。

その日の夕刻、恐る恐るカプセルを飲んだ。
しばらくすると背骨がシャンとするような気がした。
鏡を覗くとそこには地味な服を着た20代の私がいた。
あの服を着てみた。さすが店員さんの見立てはすばらしい。
若返った私にもなんて似合っていることだろう!
薄化粧を施して街へと繰り出した。

ウキウキしてウィンドーショッピングをしていたときだ。
後ろから肩を軽く叩かれた。
振り向くとそこには初恋の彼そっくりな人。
すっかり、意気投合して一緒に食事をした。

どう見ても恋人同士だ。
話がはずみ、楽しい時間が矢のように過ぎ去ってゆく。
彼が盛んに腕時計に目をやる。私もその度に時間を尋ねる。
「お互い時間を気にしますね!」
さりげなくそのことに話を向けると、
「実は‥‥。」
そう言って、彼がことの次第を語り始めた。
秘薬売りが彼の亡くなった奥さんに似た老女だった。
という以外おなじようなものだった。
私たちは狐につままれたような顔を見合わせ大声で笑った。

時間が来る前に別れた。
「50年後の私たちに逢いに、明日またこの場所で
 食事をしましょう!今度は時間を気にせずに‥‥。」
そう約束して、軽やかに待ち人のいない家路へと向かった。

by don-viajero | 2008-07-20 08:59 | 超短編小説 | Comments(2)
Commented by riojiji at 2008-07-22 22:04 x
まだ 続きはあるのかしらん?

と思ったけど「超短編・・」でしたね(笑)
気持ちを楽にしてくれる作品でしたよ。
ただ 「一粒僅か50円のカプセルを置いていった。」の
「僅か50円」は、要らない気がします。
だって ここで 現実になってしまうのですよ(笑)

Commented by DON VIAJERO at 2008-07-23 06:32 x
値を設定しないと読者が
「はて?その薬ははたしていくらだったのかな?」と
あらぬ思いを巡らすと思って・・・。
また、ここで言いたかったのは、それが高いか安いか
ではなく、それぞれの人間充分に時間を費やし、
その蓄積がすばらしい人生として残ってゆく・・。
そんなことを伝えたっかのです。
まぁ、設定しなくともよかったかも???


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