2008年 09月 11日
夏の騒がしいセミたちの歌声も消え、 夜ともなれば草むらから聞こえてくる、 虫たちのどこか寂しげな羽音。 一人ススキの穂が出始めた草原にいた。 どこまでも青い空には刷毛で掃いたような雲。 光と爽やかな風ばかりが目立ち、人の気配はない。 思い出だけが私の傍らを滑ってゆく。 ギラギラ輝いていた夏の思い出は、 原野の彼方に吸い込まれ、 あとには悲しみのひとかけらだけを残していった。 昔観た映画のセリフを口ずさむ。 「香水みたいに思い出を瓶に詰めたいわ。 蓋を開けるたび、素敵な思い出だけがそっと現れる」 突然、山から吹き降ろす冷たい風が頬をたたいた。 ススキの穂先に止まっていたトンボたちは、 必死になってしがみつく。 そして、そのとき私のなかで燻(くすぶ)っていた あのかけらも同時に持ち去っていった。 ひとつの思い出がひとつの夏を経て、 香水の瓶に閉じ込め、 新たな旅立ちを迎えようとしていた。
by don-viajero
| 2008-09-11 21:27
| 超短編小説
|
Comments(2)
|
アバウト
カレンダー
カテゴリ
全体 エッセー 山 本 超短編小説 「アドルフお坊ちゃん」 夢 Run Photo ずくの会(米作り) 男の料理 ◆旅/全般◆ Sri Lanka Myanmar Cuba/Mexico Portugal Thai/Laos/Cambodia Vietnam Yemen Mexico Bulgaria/Swiss Guatemala/Honduras Uzbekistan Peru/Bolivia Maroc 未分類 以前の記事
2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 more... 最新のコメント
記事ランキング
画像一覧
|
ファン申請 |
||