2008年 09月 30日
昼の合図を少し過ぎたころ、北原が入ってきた。 「オヤジさん!色よい返事はもらえるかな? おや?あの壷はどうしたんだ!」 店主は番台の奥から丁寧に取り出して、 「はい。はい。ここにちゃ~んとありますよ! 私どももあれからあちこち問い合わせ、 これがなかなかの物であることが判明いたしました。」 「そうさ!そうだとも!なにせ70万で買ったものを50万で いいって言ってるんだからな!」 「まぁまぁ、慌てなさんな! しかし、どうもいくらよい品物といっても50万ぐらいだそうですよ!」 「じょ、冗談はよせ! これだって出るところへ出れば、ひょっとしたら 100万にはなるかもしれない壷だぞ!」 「そうおっしゃっても私どもとしては、この品につけられる値は せいぜい25万といったところでしょうか?」 「それじゃぁ、俺の言い値の半額じゃねぇか! もう二声(ふたこえ)、まけて35万!頼むよ!」 北原は手を合わせて拝んだ。 「わかりました。それではなかをとって30万でどうでしょうか?」 「ちぇっ!しかたねぇな!背に腹は変えられねぇ! オヤジさんの気が変わらねぇうちに手を打つか!」 「おありがとうございます!」 30枚の札束を受け取り、北原は捨てぜりふに、 「オヤジさん!アンタでっかく儲けようって腹だな!」 「とんでもございません! しばらくはゆっくり鑑賞させてもらいますよ!」 「そいじゃぁありがとよ!また来るよ!」 北原が去って行ったあと、店主はこぼれんばかりの笑顔で、 その壷を舐めまわすよう手にとり眺めていた。 待ち合わせ場所に着いた北原は、 「あのオヤジ、なかなかのしみったれの欲張りだったぜ! それでも30枚もらって来たよ!」 「まぁ、いいじゃぁないか!テルさんがたった1万で買った壷だ! 今回も大成功じゃないか!なにか旨いもんでも食いに行くか!」 「それもいいね!ところでクラさん、 どうして『小野明心』なんて、洒落た名前にしたの?」 「『ONOMESIN』を逆さに読んでくれ!」 「ほう!なるほどね!」 北原は着流しの中島と肩を並べ、人混みに紛れ、 昼時で賑わう繁華街へと消えて行った。
by don-viajero
| 2008-09-30 20:14
| 超短編小説
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