陽気なイエスタデイ

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2008年 12月 16日

超短編小説 『現在・過去・未来』

私より遥かに若いきみは、狭いガレ場の登山道を
ヒョイヒョイと歩いてゆく。
辺りはミルク色の霧に閉ざされ、私はなんとかきみの
後ろ姿を見失わないように追いかけてゆく。

登山道から落ちる小石がガラガラと音を立て、
不安定な岩を巻き込みながら、
奈落の底へとその響きを大きくして崩れ落ちてゆく。
溌剌と歩を進めるきみにはどうやら聞こえないらしい。

先を行くきみの前に小さな山小屋が、
霧のなかからボンヤリと現れた。
きみは小屋の外にいた老人となにやら話し込んで、
私を手招きし、二人して小屋の中に消えた。

平屋建ての小屋の内部はさながら小さな図書館だ。
二人は私に背を向けたまま会話にはしゃいでいる。
山や旅、本の話題だ。
私は聞き耳を立てながら、本棚に並んでいるものを眺める。
「岩と雪」、「山渓」の雑誌や山岳文学本。
世界中の国の名が記された旅行本もある。
私の本棚にある物以外の見知らぬタイトルを冠したものや、
学生時代、図書館で借りた本までがある。

しかし、私は先を急がなくてはならない。明日の仕事に‥‥。
きみと老人の間に座ってゆっくり話をしたい‥‥。
十分な温かさを放出する薪ストーブの前で談笑するきみと老人は、
私の存在を無視するかのように二人だけの世界にいる。
確かに見覚えのある二人の後ろ姿‥‥。

入ってきたドアは消え失せ、書棚以外の場所は総ガラス張り。
外の真っ白なミルク色したガスに覆われているように
私にはなにも見えない。ただ見えているのは現実の煩わしさだけ‥‥。

ガラス越しからわずかに光が零れる空間が現れた。
少しばかり開いていた窓を開け、私は外に出た。
一目散に光を求めて走り出した。
振り向くとあれほど視界を邪魔していた霧もすっかり晴れ、
山小屋もなくなり一本の険しい登山道だけが続いていた。

カーテンの隙間から差し込む朝日に目覚まされたとき、
私の目の前にはきみも老人もいなかった。
ただ、いつもの見慣れた風景だけだった。

by don-viajero | 2008-12-16 20:28 | | Comments(2)
Commented by riojiji at 2008-12-21 07:20 x
「夢」の中では 「過去」と「未来」は ごちゃ混ぜになり 「現実」は見えているんだけど そこに 存在するのは「仮想現実」であって カーテンの隙間から光が差し込んだら・・・・。
「一本の険しい登山道」・・・これが 現実なのだ(笑)
星二つ~~~~~~~~~~~~。
Commented by DON VIAJERO at 2008-12-21 08:40 x
星三つは険しいのぉ!

まったくよく「夢」を見ると我ながら感心しますよ!
昨夜はトミの夢でした。
あまりストーリー性のないものでしたが、
何故彼が現れたのかの理由は解っていました。
一昨夜、彼が寒くなるとよく着込んでいたセーターが
テレビ画面から流れたからです・・・。


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