陽気なイエスタデイ

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2008年 12月 26日

『分かれ道・Ⅱ』

ハイヤーが着いた場所は神宮球場。
スタンドから歓声が聞こえてくる。
ルームミラー越しに見える私の風体は学生に戻っていた。
「一時間だけお待ちしています。
 それまでには必ずお帰りください。」
「もし‥、戻らなかったら‥?」
「それはご自分で判断してください。」
私はこの時点でようやく理解できた。
今日が何の日かを‥‥。
特段の記念日ではないが‥‥。
セピア色に褪せた遠い過去の苦い思い出‥‥。
それはおそらく私の未来への大きな分かれ道だったのかも
しれない出来事があった日だったことを‥‥。

乾いたアスファルトが下駄の音をカランカランと鳴らし、
外野チケット売り場へと向かった。
そこには彼女が待っていた。
このひと月、山ばかり登っていたので、
久しぶりのデートであった。
二人分のチケットを買い、当時まだ芝生だった人影の疎らな
外野に小さなビニールシートを広げて座った。

私の大学の試合だったのだが、真剣には観ていなかった。
二人とも出逢ってから口を開いていない。
「これが最後のデートだね‥‥。」
「そうなるかな‥‥。」

こんなことになるとは思っていなかった。
私たちは卒業後の結婚を真剣に考えていた。
-なぜだろう?こんなんになってしまったのは‥‥-
それは彼女も同じであったろう。
長い沈黙が続く。
試合の進行なんか目に入らない。
彼女との思い出だけが目の前を飛び交う。

身を投げ出して空を見上げていた。
ふわふわした雲がゆっくり流れてゆく。

「さようなら‥‥。」
彼女から聞いた最後の言葉だった。
「あぁ‥‥。」
振り向きもせず球場から消える彼女の背を目で追っていた。

by don-viajero | 2008-12-26 08:00 | 超短編小説 | Comments(0)


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