陽気なイエスタデイ

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カテゴリ:超短編小説( 89 )


2012年 06月 05日

超短編小説 『勘違い』

四月に入ると朝の通勤電車は、初々しさの残る
リクルートルックに身を固めた新入社員たちが、
次から次へと乗り込んでくる。

私が降りる二駅前に乗車してくる女性もそのうちの
一人だ。どんなに混んでいようと、人混みをかきわけ
私の前の吊り革に手をかける。
そして、大きな黒目がちの目を楽しそうに躍らせながら、
私に向かって微笑む。彼女の居所のよい笑顔は、いつしか
私の朝の気分をほっこりさせてくれるものとなり、
「おはよう」「おはようございます」の挨拶を交わす
ようにまでなっていた。

-彼女、俺に気があるのかな!?
  元気で利発そうな感じで俺好みかも‥‥
  GWのデートでも申し込もうかな???-
毎朝繰り広げられる、たった二駅の逢瀬を勝手に
そう思い込んで楽しんでいた。

GWに突入する二日前の朝、その日に限って彼女が
乗り込む前に、中年の脂ぎった大男が私の前の
吊り革をつかんでいた。その男の横まできた彼女は、
そわそわした態度で私との挨拶を終えた。

ところが、私が席をすっくと立ったとたん、彼女の
大男を押しのけての電光石火の着席に、私の淡い恋心も
いっぺんにどこかへすっ飛んで行ってしまった‥‥。

-あぁ‥彼女の微笑返しはそういうことだったのか!-

by don-viajero | 2012-06-05 19:38 | 超短編小説 | Comments(4)
2012年 01月 26日

小噺 『ニュートリノ』

「親父よぉ!光よりニュートリノのほうが速いって
 実験結果が出たの‥知ってる???」

「そういやぁ‥新聞に載ってたなぁ‥。
 えらいことになっちまったよな!
 アインシュタインさんも墓場のなかで驚いてるわな!
 ところでお前、ニュートリノって、日本語で何ていうか
 知ってるか?」

「さぁ‥?ニューはneuだから新しいじゃないし‥
 トリノってことは‥?あとでネットで調べとくよ!」

「お前、大学生のくせに馬鹿だなぁ!
 『ひかり』より速いんだから『のぞみ』に決まってるだろう!」

by don-viajero | 2012-01-26 20:13 | 超短編小説 | Comments(0)
2012年 01月 22日

超短編小説 『宇宙人』

「ねぇ‥あたし宇宙人‥拾ってきちゃった!」
「ほんとうかよ‥?!」
「その前に‥信じてくれる‥?あたしの言ってることを‥」
「信じるも何も‥とにかくどこにいるんだ!その宇宙人‥」
「この小さな箱の中よ‥」
「そんなちっちゃな箱の中にか‥?早く見せてくれ!」
「見せてあげるから‥ほんとうに宇宙人なのよ!」
「わかった、わかった。お前のこと信じるよ!」
「じゃぁ、開けるわよ!」
「なっ!なっ!ナメクジじゃないか!」
「違うわよ!宇宙人よ!‥やっぱり信じてくれないんだ‥」
「いや、待て‥百歩譲って‥いやいや千歩譲って‥
 どうしてこのナメクジが宇宙人なんだ‥?」
「だって‥あたしお話ししたんだもん!」
「このナメクジが喋ったのか‥?日本語で‥??」
「違うよ!テレパシーだよ!」
「だったら‥ナメクジ‥じゃなかった宇宙人に俺と
 会話するように言ってくれよ!」
「ほらほら‥信じてないからアンテナ引っ込めちゃったじゃない!」
「アンテナじゃなくてツノだろう‥。
 で‥このナメクジ宇宙人、なんて言ったんだ?」
「生れた星に帰りたいんだって!」
「どうやって地球に来たんだよ!?」
「昨日、すごい雷があったでしょ‥あのとき稲光に乗って来たんだって‥」
「だったら、お前が見つけた場所に戻してあげれば‥?
 きっと、仲間が迎えに来てくれるさ!」
「そうね‥!でも信じてくれた‥???」
「宇宙人に言ってくれ!いい奴に拾われてよかったね!って。
 お前って‥夢があっていいね!可愛いよ!大好きだ!!!」
「あっ!ねぇねぇ見て!宇宙人アンテナ出したよ!」

by don-viajero | 2012-01-22 13:26 | 超短編小説 | Comments(0)
2011年 12月 23日

超短編小説 『奇妙な鳥』

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開店準備をしていると、外から変な声が
聞こえてきた。
「い‥らっしゃい‥ませ」しばらく間があいて、
再び「い‥らっしゃい‥ませ」

扉を開けると、そこにはカラスに似た
奇妙な鳥が「い‥らっしゃい‥ませ」
そう言って、ピョンピョンと店内に
入ってきてしまった。
「これゃぁ、珍客でんな!商売繁盛間違いなしや!」

初めのころは物珍しさもあって千客万来の大賑わいだったが、
しばらくすると客足がバタッと途絶えてしまった。
奇妙な鳥は誰も来ないのに、相変わらず
「い‥らっしゃい‥ませ」の繰り返しだ。
誰一人お客のいない店内で鳥を眺めていると、突然
「ほな‥さ・い・な・ら」と言い残し、開けっ放しの扉から
ピョンピョンと出て行ってしまった。

ところが不思議とその日を境に、客足が戻ってくるではないか!
「ひょっとしたら、あの鳥は『閑古鳥』ちゅう鳥だったんかも
 しれへんなぁ‥‥」店主は呟いた。

by don-viajero | 2011-12-23 19:40 | 超短編小説 | Comments(0)
2011年 10月 26日

珍説・鶴の恩返し

昔、昔、あるところに強欲なじいさんとばあさんが住んで
いました。

寒い雪のある日、じいさんは罠に掛かっていた一羽の貧弱で、
背中に墨でも付けているような小汚い鶴を見つけました。
でも、気持ち悪がったじいさんは、
「こんなに痩せ細っていては、肉などないし、鶏ガラにも
 ならんわ!今度は丸々太ってこいよぉ~!」
そう言って、逃がしてやりました。

その翌日、雪が深々と降り積もる夜、戸を叩く音が
聞こえました。開けると、とても痩せた娘が立っていました。
「道に迷ってしまいました。
 どうか一晩お泊めください‥‥」
「あぁ、いいとも。でも泊まる以上は金を貰うよ!」
「はい、結構ですとも。泊めていただくだけでも
 ありがたいので‥‥」
次の日も次の日も、雪が降り続きました。娘は、
「おじいさん、私はお金がありませんから、
 お礼に綺麗な布を織りたいと思います。
 街へ行って糸を買ってきてください。
 そのかわり私が機を織っているあいだ、
 絶対覗かないで下さい」

彼女が織ったその真っ白な織物は、町でたいそうな値段で
売れました。じいさんは糸のほかにも、おいしいご馳走も
山のように買って帰りました。娘がまた部屋へ閉じこもると
じいさんが、
「なぁ、ばあさんや、あの娘さんはきっと、わしが助けた
 鶴に違いない。これからもしっかりおいしいもんをたらふく
 食べてもらって、綺麗な織物をたくさん作ってもらおう!」
「そうじゃのぉ。だから決してあの部屋は覗かないように
 しなくてはのぉ、じいさんや‥‥」
数日後、織物を購入した者たちがわんさか押し寄せ、
「あんな見てくれだけよくても粗末な織物は要らん!
 金を返せ!」
と怒鳴り込んで来たのでした。すると
「おじいさん、おばあさん、私はおじいさんに助けられた
 墨で汚れたサギです。これで山に帰ります。お達者で‥‥」
すっかり元気になった娘は、綺麗なサギになって飛び立って
いきました。地上ではじいさんとばあさんが
「詐欺だぁ~!詐欺だぁ~!!!」
と彼らが住む佐木(さぎ)村に、いつまでも響き渡るような
大声を張り上げ続けました‥‥とさ!

by don-viajero | 2011-10-26 20:23 | 超短編小説 | Comments(0)
2011年 07月 06日

超短編小説 『桜・パロディ編』

『桜』

ほころび始めたなかを歩いた。
満開のなかも歩いた。
そして、花散らしのなかをも歩いた。

はるかたっぷりと雪の残るアルプスを背に、
清らかな雪解けの水を、満々と湛(たた)えて流れる
川沿いの桜並木を、毎年妻と歩いた。

「こうして二人で歩くのも今年が最後よ!」
猛々しく妻が宣言した。
「来年のことは誰にだってわからないさ‥!」
妻はすっかり変わってしまっていた。

今年は一人で歩いている。

家に帰ると、妻はその大きな体を横にして、
大好きな「桜餅」をムシャムシャ頬張りながら
テレビを観ていた。

私の愛していた妻はあの年、見事なほど咲いた
桜とともに散ってしまった。

そのとき、家のなかを流れる異様な風を感じた。
耳を覆いたくなるような小言が容赦なく舞う。

あとは悶々とした妻への想い出だけが、
白い靄のように乱れ散る。

by don-viajero | 2011-07-06 20:33 | 超短編小説 | Comments(0)
2011年 05月 25日

超短編小説 『告げる』

夜が明けるのには、まだしばらく間があった。
私は固く目を閉じ、朝が来るのを待っていた‥‥。

突然、私の横に男が忍び入るようにやってきた。
続いて暗闇を破るようなけたたましい男たちの声。
「にしゃ、なんばしちょっと?」
「卵ばとっと~と!」
「家ん人、しっと~と?」
「しっと~と!」
「おいぶんも、とっと~と!」

-とっと、とっとと騒がしい連中だ!-
私は危険を察知し、両羽をバタつかせ朝を告げた。
「トット~コッケトット~!!!
 オットコドモ タマゴ トット~ト~~!!!」

by don-viajero | 2011-05-25 20:01 | 超短編小説 | Comments(0)
2011年 03月 21日

超短編小説 『僕の家族』

-僕の家族を紹介します。
 家族思いのお父さんと、時々怖い顔で怒られるけど、
 とっても優しいお母さん。小学校5年生のお兄ちゃんと
 4年生のお姉ちゃん、そして2年生の僕の5人家族です。

 僕が生まれる前から、ず~っと毎年、夏休みには
 家族揃って海でキャンプをしています。

 その年の海でのキャンプの最後の夜、みんなでカレーを
 食べているとき、お母さんが突然、
 「来年はお兄ちゃん最後の小学生だから、みんなで
  ハワイに行こうか?」
 お母さんの横でビールを旨そうに飲んでいるお父さんは
 ニヤニヤしていた。
 僕ら子供たちは「わ~い!わ~い!やったねぇ!!!」
 大はしゃぎで騒いだ。

 ところが、夏休みも終わり、2学期が始まりしばらくして、
 お父さんが会社の健康診断で身体のどこかに異常が
 見つかり入院した。

 お父さんのいない寂しい食卓。
 お母さんが涙をいっぱい溜めて、
 「お父さん、死ぬような病気じゃないんだけど、大きな
  手術を しなきゃならなくなったの‥‥。それでね‥‥」
  お母さんは黙ってしまった。お兄ちゃんが言葉を繋いだ。
 「判ってるよ!お母さん!
  僕らハワイに行けなくたっていいよ! なぁみんな!」
 そう言って、お兄ちゃんがお姉ちゃんと僕に同意を求める
 ように睨みつけた。お姉ちゃんは黙って頷いた。僕は
 「夏のキャンプも止めたっていいよ!」続けてお姉ちゃんが、
 「そうだよねぇ!お父さんが帰ってきて、みんなが揃って
  食事ができることが一番だよ、お母さん!」
 そのとき、お母さんのほっぺたを伝って流れ落ちる涙を、
 僕らはそっと見ていた。-

私の住む市長さんがこんなことを宣言しました。
「合併特例債を使うことは権利です!」

国から与えられたアメを使っての事業が目白押しだ。
そのなかでも特筆すべきは、80億円をかけての
市庁舎建設です。単純に計算してもそのうちの3割、
24億円は自治体負担ですが、これすら周知していない
市民が半数もいるのです。

日本の今の惨状のなかでの発言です。とても悲しいし、
恥ずかしい‥‥。こんな首長がたくさんいる日本。
はたして再建可能なのか不安でたまりません‥‥。

私はこう宣言してもらいたかった。
「日本の有事です。
 今後使える合併特例債を被災地に廻そう!
 何年かかるか判りませんが、我々の市が我々の力で
 確固たる地盤ができたとき、そのとき市庁舎のことを
 考えましょう!」

文句を言う市民はそう多くはいないと思うのですが‥‥。

by don-viajero | 2011-03-21 20:24 | 超短編小説 | Comments(0)
2011年 01月 06日

超短編小説 『初体験』

とうに結婚適齢期を過ぎた三十路の女三人が、
居酒屋で賑やかに飲んでいた。
酔いが回ってくると話題も際どいものに
変わってくる。

「で、敏江、何歳で体験したの?」
「私は中三のときよ!そう言う加奈子は?」
「敏江って意外と早かったのねぇ~! 
 えぇ~?私は二十歳過ぎかな??良子は?」
「‥‥。私はまだなのぉ~!」

酔いの勢いとは恐ろしい。
敏江と加奈子の話は盛り上がる。
「とにかく、最初は痛くって痛くって‥‥。
 失敗して、もう一度入れなおしたんだからぁ~!」
「っていうかぁ~、怖いよねぇ~。
 あんな太くて長いのが入ってくるんだもん!」
「そう、そう、すっごい時間がかかったの!
 入ったあと、仰向けになったまま目尻から
 涙が零れてくるんだよね!
 そして、そっと目を開けて見つめるの!
 声には出せないけど感動ものよねぇ~!」
「あれって、妙にリアルで驚いちゃうもんね!
 でも、良子!心配しなくていいよ!
 あの先生、とっても優しくて上手だから‥‥。」
「で、良子、いつなの?」
「う~ん‥‥。一応、来週の月曜日なんだけど‥‥。」

二人の話を聞いていて、良子はすっかり迷ってしまった。
胃カメラ検査を受けることを‥‥。

by don-viajero | 2011-01-06 19:47 | 超短編小説 | Comments(2)
2010年 09月 30日

超短編小説 『シンデレラ』

出産後体重が減らず、産後太りを絵に描いた
ような体型になってしまった。
痩せようとチャレンジしてもいつも失敗し、
そのたびに増えてしまう‥‥。

ある日、保育園に通うようになって、日増しに
おしゃまになってゆく娘が、棚の上にある写真を見つけた。

それは、美男美女のツーショット。
純白のスーツを着たパパと素敵なウェディングドレスを
纏った私の、幸せ一杯の二人が写っていた。

「ねぇ~ママ!あの写真よく見せてぇ~!」
「はい、はい。」
「パパの横にいるシンデレラみたいな綺麗な女の人、
 だぁ~れ‥‥?」
「ママに決まっているでしょうぉ~!」

娘が写真のなかの私と今の私を見比べている。
「うっそぉ~!パパは‥パパなんだけどなぁ‥‥?
 ママ、ひょっとして魔法がとけちゃったのぉ~‥?」

私は一大決心をした‥‥。

by don-viajero | 2010-09-30 19:52 | 超短編小説 | Comments(0)