陽気なイエスタデイ

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2009年 05月 28日

『湖』

真っ暗闇のなかに放り出されたように、
そこがどこなのか皆目解らなかった。

目が慣れるに従い、
おおよその概観を把握できた。

物音一つしない、静寂に包まれた湖。
その湖畔にぼんやり立っていた。

はるか向こう岸にある黒い塊のような山が、
鏡のように凪いだ水面(みなも)に映し出されている。

湖を覆うブルーなモノトーンが、
徐々に明度を増してゆく。

いまだにすべてが止まっているかのようだ。
突然、生ぬるい風が頬を撫でた。

一艘の手漕ぎ舟がこちらに向かって、
舐めるように湖面を滑ってくる。

被り笠の下から尉面(じょうめん)のような
顔をした古老が低い声で言った。
「お待ちしておりました‥‥」

湖に背を向け、踵を返し夢中で走った。
右足を前へ、左足を前へ‥‥。
足の裏が地面に吸い込まれるようで上手く動かせない。
もがく。そしてまたもがく。兎に角もがく‥‥。

目を覚ますとタオルケットが足に絡みつき、
ブルーのカーテンの隙間から朝日が零れていた。


*尉面‥‥老翁の相をあらわす能面。

by don-viajero | 2009-05-28 20:12 | | Comments(0)
2009年 05月 23日

自由俳句

今朝の毎日新聞『経世済民術』という漫画欄に
こんなのが載っていた。

「咳をしても一人」‥放哉(ほうさい)
「咳をしても百人」‥新インフル

放哉こと尾崎放哉は種田山頭火と並ぶ自由俳人の人だ。
その有名な代表作がこの「咳をしても一人」。

昔、知人に薦められて読んだ「山頭火著作集」。
その後、時を空けて手にしたのが放哉の作品集。

旅を続けて句を読んだ『動』の山頭火に対し、
放哉の作品は『静』のなかに無常と洒脱さを
重ね合わせたものだと言われている。。

今、若者たちのなかで自由短歌なるものも
流行っているらしい。

いわゆる、季語や字数に縛られず、詠みたいものを詠む。
そんな風潮なのだろうか?

私の好きな放哉の句を紹介する。
「大空の真下帽子かぶらず」
「追いかけて追いついて風の中」
「こんな良い月を見て寝る」

一瞬でも、山頭火や放哉の感性に同化するときは、
誰しもあることだろう。

by don-viajero | 2009-05-23 21:12 | | Comments(2)
2009年 05月 21日

犍陀多(カンダタ)

地球上の生き物で、総体重が一番重いものは
何だと思いますか?

それはアリです!
人間の平均体重を50kgとすると、
50kg×70億人=3500億kg。
アリの仲間は約1京(1兆の1万倍)匹いると推定されている。
仮に1匹平均0.1gとした場合、
0.0001kg×100000000億匹=10000億kgとなる。
まさに人間と並ぶ、地球上の支配者である。

最近、風呂用のマキを隣接する山から確保している。
結構、猿に倒された朽ち木が転がっているのだ。
玉割りしたものをナタで細かく割ると、
なかからウジャウジャと気味が悪いほど、小さくて
大量のアリにお目にかかる。
そのまま、燃え盛る釜に放り込む。

そんなとき-ふっーと脳みそをよぎるのが、あの『犍陀多』。
ご存知、芥川龍之介・「蜘蛛の糸」に登場する大泥棒だ。

蚊やカメムシをつぶすときには何の抵抗もないのだが、
こうした大量殺戮は少なからず気がとがめるものだ。
しかし、水溜りで必死でもがいている一匹のアリを
助けたことだってある。
部屋に入ってきた蜘蛛だって、そっとつかんで外へ
逃がしてあげたこともある。
きっと、お釈迦様もごらんになっていることであろう‥‥。

もう一度アリのことに戻ろう。
この驚くべき小さな生物は、1億4000年以上前に
地球上に登場し、恐竜の絶滅後も生きながらえてきた。
きっと、人類が滅んだ後も逞しく生き続けることであろう。

by don-viajero | 2009-05-21 20:29 | エッセー | Comments(2)
2009年 05月 18日

著莪(シャガ)

元々、原野だった場所に居を構えて四半世紀。
周りには赤松をはじめ、山桜の大木やブナ、コナラ、
カラマツetcの木々の若芽が、今は覆っている。

その木々の下では、一番始めに薄紫色のミツバツツジが
花をつけ、続いてオニツツジ(レンゲツツジ)や
ヤマツツジのオレンジの花々が咲き、
後から植えた白いリュウキュウツツジや
真紅のものまでが、競い合うように咲き誇っている。
ときおり、アゲハ蝶の仲間が蜜を吸いにやってくる。

夏で言えば梔子(クチナシ)、秋では金木犀(キンモクセイ)。
春はなんといっても沈丁花(ジンチョウゲ)の香りだ。
この三種は明らかにその香りを運ぶ塊(かたまり)があって、
その塊のなかを自分が横切ったり、塊を風が運んできたりして
その存在に気付く。

しかし、色とりどりに咲き乱れるツツジたちに囲まれた
我が家の庭は、その辺り一面の空気が塊という境界を
もたずに、さりげなく素敵な甘さに占領されている。

そんななかにあって、日陰の木漏れ日のなかに、
楚々と小さな花びらを広げている自生の著莪がある。
そっと鼻を近づければ、ほのかな甘い香り。

日本のアヤメ科のなかで唯一常緑種だ。
花は一日しかもたず、開花した翌日には萎んでしまう。
それでも次から次へと新しく花が開く。
数日でももてば、もっと華やかであろうと思うのだが、
それゆえ、この花は楚々としているのである。

by don-viajero | 2009-05-18 20:48 | エッセー | Comments(0)
2009年 05月 14日

超短編パロディ小説 『バイリンガル』

麻生さんの奥さんが猫のタマを抱いて
散歩をしていたときです。

向こうからやってきたご近所の
小泉さんの奥さんに声をかけられました。
「お宅の太郎君、大学卒業して早々にアメリカ赴任ですってね!
 英語は結構喋れるんですか?」
「えぇ、学生時代イギリス留学していましたから‥‥。」
「そう言えば、奥様もお若いころ、
 アメリカにいらしたんですよね!今でも喋れますか?」
「まぁ、少しぐらいの会話でしたら‥‥。」
「あっ、そうそう、旦那さんも長いこと
 ドイツにお勤めしていてドイツ語が堪能でしたわよね!
 お宅は家族揃ってバイリンガルなんですね!
 羨ましいわ!」
「それほどでもありませんことよ!ホッホッホッ!
 さぁ、タマ、おうちへ帰りましょう!」
そう言うと、麻生さんの奥さんに抱かれていた猫が、
「ワン!」と吼えた。

麻生さんの奥さんが立ち去った後、
呆気にとられていた小泉さんの奥さんは、
鴻池の奥さんとバッタリ!
「ねぇ、ねぇ!鴻池の奥様!麻生さんのお宅って、
 皆さんバイリンガルなんですってよ!」
「でもねぇ~、小泉さんの奥様!ここだけの話!
 あの方たちって中学漢字が読めないんですってよ!」
 いやぁねぇ~!」
「そう言えば、最近お宅の旦那さんが元気に熱海へ行ったのに、
 入院したんだって言ってましたわよ!」
「あの方たち、日本語までもバイリンガルされるんですわね!」
「‥‥???}

by don-viajero | 2009-05-14 21:21 | 超短編小説 | Comments(2)
2009年 05月 09日

お洒落

先日、我が家の横を流れる川の傍で、
オスのオオルリを見た。

毎年、春に訪れる姿は目にしていたのだが、
すばやく木々に移動してしまうので、
じっくり見たことがなかった。
今回はほんの数mの近距離で、
しかも長い時間、その美しい姿を
誇らしげに見せつけてくれた。

自然界の色彩は、それが紫であろうと、
どんなにケバケバしいものであろうと、
なんの違和感もなく、ただただ美しく、目にやさしい。
人工で創り出されたものと違い、
明るく透明感があり、人に笑いかけてくれる色だ。

鳥類。とりわけ小鳥たちのオスはメスを引き付けるため、
派手な色合いをしている。
翻って、人間はそうではない。
化粧をし、着飾るのは女性のほうである。

高校時代、制服自由ではあったが、その下に着るものは
なんでも良かったので学生服で通した。
大学時代も寒くなれば、チャンチャンコや半纏に下駄履き。
まったく、お洒落には無頓着であった。
と云うよりも、そんな余分なお金があれば、
山の装備を買いたかった。

しかし、歳を重ねるにつれ、今ではLL.Beanやモンベルを
身に纏うようになった。
昨春には、夏の浴衣のためにカッコイイ?信玄袋と下駄を
新たに購入した。

この夏は、ちょっと毛色の違った角帯で決めようと思っている。
お洒落は女たちだけのものではない!
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by don-viajero | 2009-05-09 20:45 | エッセー | Comments(0)
2009年 05月 05日

GW追憶

去年のいまごろは‥‥?
我が家にはホームスティでニュージーランド
からやって来た、ブロンド美人?の
ダイアナことダイニーちゃんがいた。

一昨年のいまごろは‥‥?
三年前のいまごろは‥‥?
‥‥前のいまごろは‥‥?
この長い休み、私や家族はどう過ごしていたのだろうか?

それよりず~っと前、
気の合った仲間と山岳会を作り、
何年か続けて鹿島槍ヶ岳の雪稜を登攀していた。
そんな、記憶の残るGW。

自分が育った家族が作ってくれた休日。
まだまだ車の所有率が低かった時代。
行楽で行った高原でのスナップ写真。
アルバムのなかでだけ甦る記憶。
それ以前も以降もない馬に乗った少年の姿‥‥。

そして、自ら新たな家族を作り、
その家族の想い出作りをした休日。

何年か前のこの時期、
何十年か前のこの時期、
私は一体なにをしていたのだろうか?

閑日の一日、
窓を開け放てば、水を張った田んぼから
賑やかに聞こえてくる蛙たちの合唱。
一年、一年記憶を紐解いてゆく作業も
なかなか面白い‥‥。

by don-viajero | 2009-05-05 21:10 | エッセー | Comments(0)
2009年 05月 01日

春の宵

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満開の山桜(4月22日撮影)

春宵一刻値千金‥‥。
などと持ち出すまでもなく、春の宵は魅惑的だ。

その日、我が家の山桜が満開を告げた。
薄曇りの生暖かな夕暮れだった。
一年ぶりに竹馬の友と酌み交わす酒。

この一年の近い過去のことや、
すぐそこまでやってきた未来のこと。
話が盛り上がるにつれ、遠い記憶の底から
拾い上げるセピア色の断片も、一つ一つ
取り出してゆく。

日中、賑やかにさえずっていた小鳥たちの歌声も消え、
そこかしこに、堰を切ったようにいっせいに咲き始めた
花たちの色鮮やかな競演も失せ、その匂いだけが
辺りに満ち溢れている。

まるで、今置かれている二人の関係のように、周りを
支配している空気は水分を多く含んでいるものの、
そうかといって、肌にべたつくわけではない。

それぞれに歩んできた道。
それぞれに選んできた分かれ道。

通りに面した窓から零れる灯りが、そこに住む人々の
生き様を表すように、人はいくつもの表札を持って
生きているのかもしれない‥‥。

by don-viajero | 2009-05-01 01:49 | エッセー | Comments(0)