陽気なイエスタデイ

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2009年 06月 26日

両側を、昔からの川に挟まれた土地に家を建てた。
ちょうど、そのころ周辺の田畑が圃場整備になり、
そこに面していた一つの流れは、
幅広のU字溝にされてしまった。

残されたもう一つの流れ。
玄関前の川は清らかで、夏でも冷たく、
原生林のなかを石床に揺られながら流れてくる
たわわな水は、ふくよかな癒しをも与えてくれる
ようであった。
そこには、沢蟹や小さな魚影を見ることもできた。

この時季、夜ともなれば裏に聳え立つ楢の大木は、
まるでクリスマスツリーのイルミネーションのように、
無数の蛍でにぎわっていた。

しかし、数年後、その川も圃場整備の関連事業と
いう名の下に、三面コンクリートになってしまい、
それからというもの、我が家の周りでは、
一匹の蛍の光を見ることはなくなった‥‥。

昔、甘い水はどこにも流れていた。
♪ほ ほ~たる来い
 あっちのみ~ずは に~がいぞ
 こっちのみ~ずは あ~まいぞ♪

幼いころ、辺りが暗くなれば、
うちわ片手に家族揃って、周りにいくらでも
飛び交っている蛍狩りに出かけた。
よそ様の畑にあるネギの筒を取り、
そのなかに捕まえた蛍を入れる。
家路へと向かうころには、足元を照らす
ペンライトになっていた。

そして、寝床部屋に吊るされた大きな蚊帳のなかに、
捕まえてきた蛍を放つ。
柔らかな光の瞬(まばた)きを眺めながら、
子どもたちは静かに夢のなかに入ってゆく‥‥。

蛍の光を見るとき、
人はきっと優しい目をしているのだろう‥‥。

by don-viajero | 2009-06-26 20:41 | エッセー | Comments(3)
2009年 06月 23日

超短編小説 『同業者』

ゆっくりドアのノブを回してみた。
-あれ?開いている???-

懐中電灯の心細い明かりだけが
揺れるリビングまで、
そう~っと足を運び電気のスイッチを押した。

「ヒッ!」
そこには、包丁を握り締めた男が、
まるで、鳩が豆鉄砲でも食らったような
顔をして立っていた。
「あっ!泥棒だ!」

男は震える両手に包丁を構え、
「か‥金・を・だ・せ!」
「お前さん!なにをそんなに震えているんだ!
 入り込んだ家を間違えたみたいだな!」
「な‥なんだとぉ!」
「俺は現役の刑事(デカ)だし、
 ほれ!そこの賞状やトロフィーを見ろ!
 そんな包丁一本だけで、
 柔道六段を相手にするのか?」
「ヒェ~!!!か‥勘弁してください!
 未遂ですし‥アワワワワワ‥‥。」
と言い終えるが早いか、
男はすばやく走って出て行った。

-まったく、最近のコソ泥は下調べもしないで、
 いきなり忍び込むから困ったもんだよ!-
そう呟きながら金庫のダイヤルを回し始めた。

by don-viajero | 2009-06-23 20:19 | 超短編小説 | Comments(1)
2009年 06月 21日

超短編小説 『おくりびと』

私が5歳にとき、
父が祭りの夜店で買ってくれた亀の「亀吉」。

その父も一昨年、逝った。
父のあとを追うように昨年、母も逝った。
そんな二人を見送った亀吉が
昨日、死んだ。
おそらく大往生なんだろう。
みんなに可愛がられた。

亀吉が我が家に来たときの私と
同い年になった孫娘と一緒に、
頑丈なダンボール箱に入れ、
庭の隅に埋めた。小さなお葬式だ。

「おじいちゃん、死んだ亀吉はどうなるの?」
「そうさなぁ‥‥。
 天国ってとこで楽しく暮らすんじゃないかな?
「ふぅ~ん。」

孫娘は小さな手を合わせ、
「無事、亀吉が天国に行けますように‥‥。」

翌日、孫娘にこう言われてしまった。
「おじいちゃん、亀吉のお墓を掘り返してもいい?」
「どうしてだい?」
「だって、亀吉が無事天国に行ったか確かめたいの!」

by don-viajero | 2009-06-21 06:51 | 超短編小説 | Comments(0)
2009年 06月 18日

忍冬(スイカズラ)

発見!
先日、孫たちと木苺とりに夢中になっていたときだ。

木下闇(このしたやみ)に次々と咲き出した、
その匂いとは裏腹な白い可憐な十薬(ドクダミ)が
咲き乱れるなかに、ほんわりと甘い匂いの塊があった。

なんと清楚な花だろう!しかもその香り。
人目に付かず咲いている花々には
敬意をも抱かせる。

早速、PCで調べてみると『忍冬』と書いて
『ニンドウ』⇒『スイカズラ』。

『忍冬』の名は、常緑性で冬を通して
葉を落とさないから付けられたそうだ。

つる性の低木(カズラ)で、
管状になった花を口に含んで静かに吸うと、
良い香りがあって蜜は甘い味がすることから
『吸い葛(スイカズラ)』という名になったらしい。

しかも、この忍冬は生薬としても用いられている。
白色の花がだんだん黄色くなると、
まるで金色と銀色の花が混じって咲いているように
見えるので、その生薬名を『金銀花』。

冬を忍び、咲いた花!
そして、人知れず甘い香りを放ち、
初めてその存在を知った私をも虜にしてしまった、
こんな清楚な花が身近にあったとは‥‥!
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by don-viajero | 2009-06-18 20:40 | エッセー | Comments(0)
2009年 06月 14日

屏風岩

宙(そら)に舞った。

ほんの0コンマ何秒かの間に20余年の人生が
走馬灯のように駆け巡った。
-あぁ、これで俺は死ぬんだ‥‥-
そう思った。

今から34年前、1975年の6月15日。
前穂高屏風岩・一ルンゼ上部で滑落した。
核心部も終え、急峻な雪渓をステップカットを
しながら「屏風の頭」を目指して一歩一歩登っていた。
足元の雪が崩れそのまま滑り落ち、
しこたま膝を岩に叩きつけられ宙に浮いた。

後にも先にも『死』というものに
直面したのは、これ一回きりだ。

6月に入り、東京も梅雨入り宣言がされ、
毎日降り続く雨に、心まで湿気に捕われていた。

そんな憂鬱な日々を過ごしていたとき、
信州にいる山岳同人『餓鬼』の仲間、
S氏から手紙を受け取った。
-天気と都合が良ければ一ルンゼをやりに行こう!-
折り返し、6月14日からの入山予定を送った。

久しぶりに山行記を開いて、この転落の顛末を
綴った登攀記を読んだ。ただ、この記の最後には、
「レーテの河の水を飲みたい‥‥。」
で締められていた。

当時、この一文が示すように、
梅雨時の湿気ばかりでなく、よほど悶々とした日々を
送っていただろう苦い青春時代を想い返すのは、
そう難しいことではなかった‥‥。
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        屏風岩一ルンゼ取り付け

by don-viajero | 2009-06-14 20:18 | | Comments(0)
2009年 06月 10日

麦秋(ばくしゅう)

『麦秋』。懐かしい言葉の響きだ。
しかも、このおおらかな気分を醸し出す
雰囲気は、いまではすっかりお気に入りの
泡の飲み物をも連想させるのだが‥‥。
揺籃期においても大切な記憶として残っている。

私が子どものころは水田の裏作として、
この時季になると辺り一面黄金色に染まった。

麦畑のなかに入ると小さな子どもなら
ほとんど姿が隠れてしまうほど、
昔の麦は丈が長かった。
それは、腕白盛りの悪童たちにとって、
恰好の『かくれんぼ』の場所を提供してくれた。

刈り取りも終わり、脱穀のすんだ麦わらは
積み上げられてしばらく放置されていた。
そんな麦わらのベッドで、鼻を突く香ばしい
匂いに包みこまれながら転げまわって遊び呆けた。

遊び疲れると誰かが石鹸水を持ってきて、
麦わらをストローにして先を数箇所切り込み、
一日の終わりを告げる夕日に向かって
シャボン玉を飛ばした。

静かな風になびかされてキラキラと輝く麦畑を
眺めていると、映画『星の王子さま』に出てきた
キツネさん役の男優が、
-ヒョイ-っと現れるような気分になる。

そしてこう言うんだ。
「かんじんなことは、目に見えないんだよ!」って‥‥。

by don-viajero | 2009-06-10 21:04 | エッセー | Comments(0)
2009年 06月 07日

体罰

今年4月、最高裁でこんな判決が下された。
「教育的指導であり、体罰ではない」

小学二年生男児が同学年の女の子を虐めていたのを
教諭が注意したところ、その子が教諭の尻を蹴ったので、
胸ぐらをつかんで壁に押し当てた。と云う一件だ。
こんなことを訴えた親(子供も‥‥)も親だが、
最高裁の判断も陳腐なものだ。

『胸ぐらをつかんで‥‥』は明らかに体罰だ!
しかし、いくら教師といえども聖人君子でもあるまいし、
頭に来るときは頭に来るに決まっている。

『モンスター・ペアレンツ』
私が小学生のときにも一人だけ変な母親がいた。
ちょっと指をつかんで反らしただけなのに、
翌日、その母親は学校に怒鳴り込んできた。
あの母親は一体何回こうやって学校へ来たことだろうか‥?
一応、その子に悪戯した生徒は母親の目の前で謝らされる。
そんな子供の些細な喧嘩や教師による『体罰』は日常茶飯事。

おやつが欲しくて、店からお菓子を盗むような悪童でも
なければ、桜の木を折って「私がやりました!」と手を挙げ、
歴史に名を残すような少年でもなかったが、
よ~く『体罰』は食らった。因果応報‥‥。
すべて自分が悪かったからだ。

中学の理科のときだ。
理科の授業はグループごとに大きな机を囲むように坐る。
私は一番後ろ、隅っこのグループ。
授業をそっちのけで、同じグループのS君に夢中で話しかけていた。
一瞬、教室が静かになり、張り詰めるような緊張が走った。
振り向くとU先生が私の前に真っ赤な顔をして仁王立ち、
瞬く間に往復ピンタが飛んだ‥‥。それだけの出来事。
授業はなにもなかったかのように進む。

今でも、私はその教師を恨むどころか、
良き恩師として記憶している‥‥。

by don-viajero | 2009-06-07 20:14 | エッセー | Comments(2)
2009年 06月 04日

懐メロ

40を過ぎてからだろうか‥‥。
ラジオのボリュームを絞って、つけっ放しで
寝ることが習慣になっている。

夜中、目を覚まし寝付けないときなどは、
年配者に人気のNHK「ラジオ深夜便」を
そのまま聴き入ってしまう。

以前は昭和初期のものが多かったが、
最近は、私がそれだけそういった年代になって
しまったのか、やけに懐かしい曲が流れてくる。

ビートルズやカーペンターズの曲は、
昼間でもときおり耳にするのだが、
今ではすっかり聴くことのなくなった、
ビリー・ジョエルの「マイ・ライフ」「オネスティ」や
カスケーズの「悲しき雨音」、ギルバート・オサリバンの
「アローン・アゲイン」や「クレア」‥‥。
心が躍り、布団の中でつい口ずさんでしまう。

そして、それらの歌が流れていた青春時代へと想いが募る‥‥。
再び寝入ったときに、若かりし日々の夢でも見られれば‥‥。
心地よい眠りに入ってゆく‥‥。

耳の奥からカレンの透き通った歌声、
「Yesterday Once More」
最後のフレーズが響いてくる‥‥。

All my best memories      楽しかった思い出
Come back clearly to me    まるで昨日の事の様に甦ってくる
Some can even make me cry 懐かしくて涙が出そうなほど

Just like before          昔と同じように
It's yesterday once more    懐かしい日々がもう一度‥‥

by don-viajero | 2009-06-04 20:05 | エッセー | Comments(0)
2009年 06月 01日

ラッシュライフ

最近好んで読んでいる、伊坂幸太郎の作品だ。

「ラッシュ」。
日本語では一つの表記でしか表すことのできない
この言葉には四つの意味がある。
ページを捲ると、これらの意味が一連の
物語を暗示している。

lash
名詞)むち打つこと。遊び。
動詞)激しく動かす。(金などを)濫費(らんぴ)する。

lush
形容詞)豊富な。景気のいい。華麗な。
名詞)酒。飲んだくれ。

rash
形容詞)無分別な。軽率な。せっかちな。
名詞)発疹。吹き出物。

rush
動詞)突進する。殺到する。むこうみずに行動する。
名詞)突撃。大多忙。忙殺。ご機嫌取り。

まるで巧妙な騙し絵のように交錯する
複数の人生が描かれている。
裏表紙の説明にあるように「並走する四つの物語」。
(実際には五つの人生が並走しているのだが‥‥。)
ある人物は人生に前向きになることができ、
ある人物は立ち直れないくらいの絶望の淵に立たされ、
ある人物は周囲に大きな影響を与えるものの、
本人は特に変化がなかったりする。
それが、それぞれの「ラッシュライフ」。

人生の主役は常に自分自身である。
誰もがそれぞれの人生の主役であり、
他人に主役を譲ることなどできないのだから‥‥。

願わくば「Lush Life !」
「豊潤な人生」であることを願いましょう!

by don-viajero | 2009-06-01 21:04 | | Comments(0)