陽気なイエスタデイ

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2010年 06月 27日

侵略者

「夜は冷たくあたり一面に広がっていた。単なる暗闇と
 いうよりも、なにかしら〈夜〉という生物が‥‥。」
幽霊」第三章の書き出しである。

川を隔てて西に広がる、荒れた山林の夜は月夜でもない限り、
黒い。暗いのではなく黒いのだ。濃厚な墨をたっぷりと
流し込んだかのようにどろりと真っ黒に塗りつぶされている。

下草に覆われ見通しが悪くなると、決まってヤツラが棲みつく。
黒い暗闇に蠢くヤツラは、じっと明るくなるのを待ち構えている。
いったい、あの憎きならず者たちが来るようになったのは、
いつごろだったのだろうか‥‥。

本格的な野菜なんか作ったことのない私が、裏の荒地を
母とともに耕し、様々な野菜を育てた。キュウリ、ミニトマト、
ネギ、ジャガイモ、タマネギ、シシトウ、ピーマン、枝豆、
サヤエンドウ、イチゴ‥‥etc。

あるカンカン照りの続いた夏。
仕事から帰り、裏の畑を覗くと青い部分だけが辺りを散らかし、
ネギがごっそり抜き取られていた。
あのカチンカチンになった土のなかから鍬なんか使うことなく‥‥。
-猿だ!-

前年、一匹のハグレ猿が出没していた。
それがどうやら群れを成して現れるようになった。
ヤツラはシシトウやピーマン類は残し、ありとあらゆる野菜を
食べつくしてゆく。楽しみだった野菜作りを諦めた。

そんな元耕作地が再び荒地に戻ってしまった場所に、
毎年たくさんのオレンジ色の美味しい木苺が生る。
先週の朝、たわわに実った実を午後採ろうとしたところ、
ヤツラが踏み潰した食べ残しが、僅かにあっただけだった。

W~~~~WANTED !!!
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by don-viajero | 2010-06-27 19:21 | エッセー | Comments(0)
2010年 06月 24日

幽霊

「幽霊」。
どくとるマンボーこと北杜夫の長編処女小説だ。
若いとき、タイトルに引かれ手にとり、冒頭に書かれた
文章がたちまち私の心を捉えてしまった。

それが「幽霊・序章」で紹介したものだ。
今回その本はさて置き、「幽霊」繋がりで本棚から
引っ張り出してみた次第だ。

長男夫婦と食事を供にした折、たまたま蜂の話題に
及んだ。昨年こそ、直径30cm以上あるスズメバチの巣を
確保したときでさえ、刺されはしなかったのだが、以前
紹介したようにカミさんも呆れるぐらい本当に、まぁよく刺される。
そして、話しは刺されて「お岩さん」のように成り果ててしまった
顔のことに移った。
「お岩さんって???」
そうなのだ。息子にしても嫁さんにしても、
そもそも「お岩さん」自体を知らないのだ。

我々の世代では「お岩さん」と言えば、当然怪談話。
幽霊を連想することができるはずなのだが‥‥。

小学校時代、夏休みに入れば白黒テレビでは、これでもかと
いうぐらいしつこく怪談シリーズものを放映していた。
怖いもの観たさに「番町皿屋敷」や「四谷怪談」‥‥etc。

あのころは水洗トイレなんかじゃなく、夜中オシッコをしたくとも、
あの暗~い電球のポットン便所に行くことが怖いし、灯りの乏しい
家の周りが、何かおどろおどろしい雰囲気でいっぱいだった。

今でも真夜中、裏の物置にある冷蔵庫へビールを取りに行くとき、
いい歳をして何となく背中にゾクッとするようなものを感じる。

「幽霊」とはあくまで「個人の心の神話」
なのかもしれないのだが‥‥。

by don-viajero | 2010-06-24 20:09 | エッセー | Comments(0)
2010年 06月 23日

幽霊・序章

「人はなぜ追憶を語るのだろうか。

 どの民族にも神話があるように、どの個人にも心の

 神話があるものだ。その神話は次第にうすれ、

 やがて時間の深みのなかに姿を失うように見える。

 ―だが、あのおぼろな昔に人の心に忍び込み、
 
 そっと爪跡を残していった事柄を、人は知らず知らず、

 くる年もくる年も反芻(はんすう)し続けているものらしい。

 そうした所作は死ぬまでいつまでも続いてゆくことだろう。

 それにしても、人はそんな反芻をまったく無意識に

 続けながら、なぜかふっと目覚めることがある。わけもなく

 桑の葉に穴をあけている蚕が、自分の咀嚼(そしゃく)する

 微かな音に気付いて、不安げに首をもたげてみるようなものだ。

 そんなとき、蚕はどんな気持ちがするのだろうか。」
 

by don-viajero | 2010-06-23 20:17 | | Comments(0)
2010年 06月 20日

雨に濡れても

つい先日まで、梅雨入りしてからの週間天気予報はず~っと
「傘マーク」がついていた。

爽快とは言えない温度と湿度のなかで、心までもが湿気に
捕われてしまいそうなこの時季、よく思い出すのが屏風で
落ちてからの鬱陶しく、ため息ばかりついていた毎日だ。

ついさっき呑み込んだものをゆっくりため息として吐き出した
ところで、いったん胸に戻ったぶん、湿り気と、重みと、苦みが
増してゆくだけだった。

そんな繰り返しの朝、下北沢にある場末の映画館の看板が
目に入った。翌日、朝からサンドイッチを作り、その映画館に
出かけた。すでに盛りの過ぎた映画が三本立てで1000円。
お客はいつもガラガラだったが、そのころが人生で一番
映画を観た時代であろう。

「世紀の色男」?アラン・ドロンとジャン・ポール・ベルモンド。
フランスの二大スター主演によるギャング映画「ボルサリーノ」
シリーズや、キャサリン・ロスに心ときめかした「明日に向って撃て」
壮絶なラストシーンの「俺たちに明日はない」「スティング」‥‥etc。

大学を一年休学している間、山仲間の妹さんに又貸ししていた
部屋に、再四年のとき再び住むようになってからの梅雨時6月、
長い旅から帰って腑抜けになってしまった心を満たしてくれたのは、
やはり足繁く通ったあの映画館だった。

そのころ、隣りの「893」さんが別荘(刑務所)へ行っていたので、
音量を上げ、窓越しから遠くに見える小糠雨(こぬかあめ)に咽ぶ
東京タワーを眺めながら、聴いていたのが石川セリのアルバム
「気まぐれ」だった。なかでも「ダンスはうまく踊れない」
井上陽水が、のちに妻となるセリと付き合い始めのころ、
気を引くために目の前で30分ほどで作ってプレゼントした曲だ。

雨に濡れても、楽しみはいくらでもある‥‥。

by don-viajero | 2010-06-20 15:15 | エッセー | Comments(0)
2010年 06月 17日

ある夏の日

そこはマングローブの林のように、木々が腰までの
深さの水の中から生えていた。

-ブクブク ブクッ ブクブク ブクッ-
所々から透明な水の底を覆う白い砂をさかんに
吹き上げながら、滾々(こんこん)と地下水が湧き出てくる。
木漏れ日が水面(みなも)をキラキラと揺らしている。

その中だけがシーンとした静寂に包まれ、太い幹の枝から
下を覗けば大きな魚が優雅に泳いでいる。
そんな魚たちと一緒に泳ごうとしても、あまりの冷たさに
一分と浸っていられない。

そこは僕たちだけの秘密の場所で、いまにも水の妖精が
現れそうな「神秘の泉」みたいなものだった。

土手を超え、高瀬川の清流に体を委ねて、ジェットコースター
紛(まが)いの泳ぎをしたり、少しも前に進めないのに
流れに逆らって懸命に手足を動かす。

真夏の太陽に照らされ、チンチンに熱せられた中州の
砂地には、取り残されたような生ぬるい大きな澱みがあり、
我々が「ジンケン」と呼んでいた数匹のオイカワがのんびりと
泳いでいる。僕たちは素手でその魚を‘にがもう’(掴もう)と
悪戦苦闘する。

魚を追い、遊び疲れた体を大の字に寝かせ、空を仰げば、
東山の向こうに入道雲が、まるで搾りたてのソフトクリームの
ようにモコモコ盛り上がっていた。

中学一年の毎日、毎日が楽しかった、暑い、暑い夏休みの
ある日の出来事だった。

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by don-viajero | 2010-06-17 19:49 | エッセー | Comments(0)
2010年 06月 15日

小噺

閑話休題。
病院の診察室での小噺を2題。

①「先生、物忘れがひどくなってきたんですが‥‥。」
  「ほう、それはいつごろからですか?」
  「なにがですか‥‥?」

②「先生、わたし、どうも認知症みたいなんですが‥‥。」
  「そうみたいですネ!」
  「先生!よくわかりますネ!」
  「だって、今日これで三回も診察に来ましたヨ!」

by don-viajero | 2010-06-15 20:06 | 超短編小説 | Comments(0)
2010年 06月 13日

閑話休題

ここ最近晴天続きだったが、どうやら明日あたり
「閑話休題」よろしく、私の住む地方でも梅雨入り宣言が
ありそうだ。

とりわけ人生に本題も余談もあるわけではないのだが、
格段無駄話ではなくとも「あだしごと」は、いくらでも
存在するのではないだろうか?
私自身、人生の「寄り道」がちょっとした「閑話休題」に
入る前の生き方のような気がする。

ところで、最近まったく傾向の異なる本を手にした。
それは、私の読書歴のなかでも「閑話休題」前の、
一服の清涼剤のように、人の優しさに触れるものだった。

加納朋子の「ささらさや」。
新婚後、生れたばかりの赤ん坊を残して、突然交通事故で
死んでしまった旦那。あの世へ行けず、彼の姿を見る事の
出来る人物に一度だけ乗り移り、頼りない未亡人「さや」さんを
励まし続ける。そんな「さや」さんが移り住んだ「佐々良(ささら)」
での出来事を綴った物語だ。
そして、その姉妹本の「てるてるあした」。
こちらは「佐々良」での「さや」さんを取り巻く、一癖も二癖もある
三ババの一人、久代さんの家に転がり込んだ中学出の
「照代(てるちゃん)」が出会う不思議な体験物語。

役者が台詞(せりふ)のない行間を演じるような器用な
生き方はできないが、無聊(ぶりょう)な日々を送るなかで、
些細な会話での一言が、煌くように思わぬプレゼントと
なることがある。

「燕雀(えんじゃく)いずくんぞ鴻鵠(こうこく)の志を知らんや」
(小さな人間は、大きな人間の志が判るはずがない)
左見右見(とみこうみ)の生き方も、これ楽しからずや!
といったところかな‥‥。

by don-viajero | 2010-06-13 14:47 | | Comments(0)
2010年 06月 10日

超短編小説 『ボタン』

「大統領!いますぐにでもボタンを押しましょう!」
落ち着き払った相手に、彼は執拗に迫る。
「我々が優秀なことを思い知らせるべきです!
 あんなゴミども、この世から抹殺すべきです!」

彼のすべての悲壮感を背負った言葉にも、同調することなく、
私は黙ったままスイッチに指をかけている。
「さぁ、大統領!ボタンを押して下さい!
 我々民族が滅ぼされる前に先手を打つのです!
 彼らを放っておいては、我々はいつの日か侵略されるのです!」
「‥‥。」
「さぁ!一刻の猶予もありません!あいつらはすでに東京湾を
 侵略しています!東京湾がなくなってからでは遅いのです!」

私は壁にかかった電子時計を見る。
時刻は10時になろうとしていた。
「ねぇ、点火ボタンは押すけどさぁ‥‥。
 田中君!君がSFオタクだってことは分かるよ!
 でも、いちいち焼却炉の点火スイッチ押すたびに、
 そういうの止めてくれないかなぁ‥‥。
 清掃局での点火時間は10時って、決まってるんだからさ!」

by don-viajero | 2010-06-10 20:02 | 超短編小説 | Comments(0)
2010年 06月 07日

献血

べつに喧嘩っ早いわけではないのだが、どうも、若いときから
血の気が多い。

特に、口角泡を飛ばすような議論になると、頭に血が
上って、興奮のあまり声高になり、甲論乙駁(こうろんおつばく)と
なってしまうことしばしばである。

いつからだか忘れてしまったが、そんな血を少しでも
定期的に抜いていればそんなことはあるまいと、
献血をするようになった。

始めのうちは200cc。その後400ccになり、いまでは
ほとんど血漿成分献血をしている。
400ccや成分献血は、200cc献血の7項目に加え8項目、
計15項目の検査報告が送られ、普段の健康チェックには
重宝している。すでに、すべての献血回数は44回を数える。

ところが、ちっとも血の気の多さは変わらない。
もっとも、抜かれてしまった分、新たにもっと新鮮な血が
造られているのだから、当たり前と言えば当たり前だ。

しかし、ここ二年ほど献血をしていない。ときおり起こす
ある症状に薬を飲んでいるからだ。
暴飲するたびに、しばらくして自覚症状を察する潰瘍だ。
10年ほど前、人間ドッグで診せられた胃カメラによる
私の胃壁には、たくさんの白い潰瘍痕があった。
そのときにも、大量の薬を与えられてしまった。

最近では、3月からこの薬を飲み続けている。
何故なら、安心して酒が飲めるからだ。(笑)
すでに、今回の潰瘍は完治していると思うので、一旦
服薬を止め、しばらくしたら、久しぶりに献血ルームを
訪れることにしよう‥‥。

by don-viajero | 2010-06-07 20:36 | エッセー | Comments(0)
2010年 06月 04日

MAPC

明大アルペンフォトクラブ=MAPC

二年生になった夏休み前。
つまらない撮影合宿なんぞに付き合わされたくもなく、
すでにフィルムや印画現像の技術を習得した私は、
なんの躊躇(ためら)いもなく、写真部を辞めた。

三年次、ときどき一緒に山行を重ねていた同級の
K君と、その年の学園祭を機に「MAPC」を立ち上げた!
と言っても、届けもしていない無登録幽霊クラブみたいな
ものではあったが‥‥。

学園祭の実行委員会に入り込んでいる友人に頼み、
三階の一室を借り受けることができた。

K君と二人で、お気に入りの全紙や半紙の写真を壁に並べた。
一番大きいものは畳大のものだった。
感想や購入希望者用のノートを入口に置き、来場者を待った。

頃合いをみて、私はデモンストレーションに打って出た。
三階からザイルを垂らし、懸垂下降で地上へ。
地上からカラビナとシュリンゲ(細ロープの輪)を組み合わせ、
ザイルに絡めての上昇。(ユマール{垂直登攀用の登高器}
なんて高級な道具の持ち合わせがなかったので‥‥)
数回、昇ったり降りたりを繰り返した。
その甲斐あってか、次々と訪問者が増えてきた。
特に他大学の女性が目立って多かったような気がする‥‥。
しかも、かなりの枚数の契約にも成功した。

こうして、初秋の軽やかな風が丘を越えてやってくる
校舎で迎えた、たった二人の学園祭での山岳写真展は、
大成功に終わった。

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                【夕映えの不帰】

by don-viajero | 2010-06-04 20:47 | | Comments(0)