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陽気なイエスタデイ

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2010年 10月 29日

記憶・Ⅲ

一瞬にして鮮やかな色付きに変わるような、
K君との楽しかった記憶もあれば、記憶の底を
さらうようにして出現し、体中の産毛をちりちりと
ざわつかせ、情けなさや悔しさに全文消去して
しまいたくなるものまでが、しっかり保存されている。

何かを忘れてしまいたい思い。逆に忘れずにいたい
思い。きっといつかは忘れてしまうのだろうという
疚(やま)しさが先に立って、いつまでも取り払えずに
いる思いは、誰にでもあるだろう。
何かを忘れずにいることが絶対に不可能だから、
ますます何かを絶対に忘れたくなくなってくる。

長い人生を歩んでゆくうちに、保存された記憶で
いっぱいになってしまうだろうはずの脳みそは、
まだまだいくらでも隙間があるらしい。

掴もうにも掴めない、触れようにも触れることの
できない水のなかにできた水溜りのような記憶。

半世紀も元気に生きてきた証が、偽りのない姿で
鏡に映し出されている。
そんな自分のそれぞれの時代が生きている記憶の
表側にある顔と、めっきり白いものが目立ってきた
髪や髭を見て、
-ずいぶん、爺くさくなってきたなぁ‥‥。-
と苦笑交じりで思う。
向こうも同じように苦笑いを浮かべ、
-お互い様だよ!-
鏡のなかの私が呟いた‥‥。

『記憶・Ⅰ』
『記憶・Ⅱ』

by don-viajero | 2010-10-29 20:08 | エッセー | Comments(0)


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