2011年 07月 06日
『桜』 ほころび始めたなかを歩いた。 満開のなかも歩いた。 そして、花散らしのなかをも歩いた。 はるかたっぷりと雪の残るアルプスを背に、 清らかな雪解けの水を、満々と湛(たた)えて流れる 川沿いの桜並木を、毎年妻と歩いた。 「こうして二人で歩くのも今年が最後よ!」 猛々しく妻が宣言した。 「来年のことは誰にだってわからないさ‥!」 妻はすっかり変わってしまっていた。 今年は一人で歩いている。 家に帰ると、妻はその大きな体を横にして、 大好きな「桜餅」をムシャムシャ頬張りながら テレビを観ていた。 私の愛していた妻はあの年、見事なほど咲いた 桜とともに散ってしまった。 そのとき、家のなかを流れる異様な風を感じた。 耳を覆いたくなるような小言が容赦なく舞う。 あとは悶々とした妻への想い出だけが、 白い靄のように乱れ散る。
by don-viajero
| 2011-07-06 20:33
| 超短編小説
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