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陽気なイエスタデイ

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2008年 07月 20日

超短編小説 『秘薬・Ⅰ』

夫は数年前に他界し、子供たちや孫たちもなにかと
忙しいらしく、このところちっとも顔を見せない。
つまらない毎日だが、頑丈な身体のおかげで元気に過ごしている。
その夏も、すでに陽も傾き、ヒグラシが甲高い鳴き声で騒ぎ始めていた。

-ピーンポーン-
チャイムが鳴った。
-イヤぁね~!また悪徳セールスマンかしら?-
ドアーの小さな覗き窓から窺った。
目深に被った帽子から白髪がはみ出して、ヨボヨボの背広を着た方だった。
どこか、夫に風貌が似ていたことがドアーを開けさせた。

「は~い!何の御用ですか?」
帽子をとって挨拶されて驚いた。
「あっ!」
一瞬あの人が帰ってきたのかと思ったぐらいだ。
「私は秘薬売りです。」
「な、なんですか?その秘薬って?」
「はい。これは6時間有効な“50年若返り薬”です。」
「嘘おっしゃい!そんなものあるわけないでしょう!」
「嘘だと思うんでしたら、お飲みにならなくて結構です。」
「だったら、それが本物かどうか証明して下さいよ!」

老人は玄関脇にある、私たち夫婦が植えた結婚記念樹の根元に、
カプセルから出したその薬を蒔き、脇にあった如雨露で水をかけた。
あら不思議!みるみるうちに植えた当時の幼木に戻ってしまい、
その木にとまっていたヒグラシが一斉に飛び去った。

「6時間もたてば元に戻ります。
 ただこれは一回きり効能がありません。
 50年前に戻ってアバンチュールを楽しんで下さい。
 たった6時間ですが‥‥。時間を大事に使って下さい。」
そう言って、一粒僅か50円のカプセルを置いていった。

カプセルを枕元に置き、床に入っても色々なことを思い描いていた。
-たった6時間か!?だったら朝飲むより夕方のほうがいいわね!
 久々に夜遊びでもしてみようかしら‥‥-
そう決断すると深い眠りに入った。

by don-viajero | 2008-07-20 08:38 | 超短編小説 | Comments(0)


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