2008年 08月 22日
新緑が眩しいある日、一人渓流釣りに出かけた。 若葉からの木漏れ日も踊るような陽光だった。 ただ、そんな日に限って釣果はさっぱりだ。 うらうらと気が遠くなるような長閑な午後。 一つ二つ浮かんだ雲が空の青さを際立たせている。 たっぷりと陽光を吸い取った大きな花崗岩の上に、 釣竿を投げ出して寝転んだ。 手が届く所に生えていたクマザサで笹舟を作り、 静かな流れの川面(かわも)に浮かべた。 ちっちゃな笹舟一艘だけの旅立ちだ。 しばらくはそれを目で追っていた。 そのうちウトウトと微睡(まどろ)み始めた。 瑞々(みずみず)しい緑の笹舟は、激しい流れに揉まれ、 やがて穏やかな流れの広い川辺へと出た。 子供たちが遊ぶ浅瀬では、彼らの手や足のぬくもりに触れ、 歓声と水しぶきにかき消されて気づかれることもなく、 再び川下へとゆったりと流れてゆく。 銀色の鏡のような凪いだ海原に辿りついた。 ボロボロになった笹舟は夕餉(ゆうげ)を漁る小魚に引き込まれ、 真っ黒な海底へと沈んでいった。 ブルっ!とする冷ややかな風が川面を舐めたとき目覚めた。 -あの笹舟は無事、海まで行くことができるだろうか?- 釣果のないままの帰路。 目の前に飛び込んできたのは、 流れを寸断するでっかいコンクリートの塊だった。
by don-viajero
| 2008-08-22 21:40
| 超短編小説
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