2008年 12月 27日
いったい何のためにこの分かれ道に舞い戻ってきたのだろう。 やり直すためだったのだろうか? いや、そんなことをしたら今の自分がいなくなってしまう。 ただ、ただ、確認をしたかっただけなのだろうか? 小さな小さな迷いのあった道を選びながらきた結果が、 この大きな分かれ道に繋がっていたのかもしれない。 胸の奥に少しずつ降り積もった不満が、 いつしか若い二人の許容量を超えてしまったのだ。 相手方の4番打者が放ったホームランで、 球場全体が大きな歓声に湧き上がったとき、 ようやく我に返った。 時計を見ると約束の時間に近づいていた。 とうに試合の結果など気にはしていなかった。 胸のなかにある春霞のようなモヤモヤはいっこうに晴れはしない。 重い腰をあげ、車に戻った。 「如何でしたか?」 私は男の問いに答える言葉を見つけられず、 黙ったまま深々と後部座席に身体を沈めた。 「それでは、帰ります。」 「あなた!あなた!大丈夫?」 耳元で妻の声が響く。 辺りは相変わらず春霞に覆われたままボンヤリしている。 「あぁ‥。大丈夫だ‥‥。」 「よかったぁ‥。 石に躓(つまず)いて、転んだ拍子に気を失ったのね?」 「‥そうみたいだ‥。」 「本当に大丈夫?」 そう言って妻が身体を支えてくれた。 立ち上がって頭を振ってみてもどこにも痛みはない。 そこには過去など振り返らずとも、 私が選んできた十分な幸せがあった。
by don-viajero
| 2008-12-27 07:26
| 超短編小説
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