陽気なイエスタデイ

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カテゴリ:超短編小説( 90 )


2009年 11月 18日

超短編小説 『無人の村』

そこは誰もいない村だった‥‥。

松茸がよく採れるという地方へ、二時間かけて車を走らせた。
初めて訪れる山だった。

まだ薄暗いなか、迷わぬよう気を使って登って行った。
やはり、一本も見つけられない。
私が住む地域もそうであったように、ここも不作の年なのだ。

尾根まで駆け上がり、反対側の谷底を見下ろすと、
桃源郷のような小さな集落があった。

茅葺きのものもあれば、秋の朝陽に照らされ、
キラキラ輝くトタン葺きの屋根もあった。
その数、十数軒だろうか‥‥。
私はその小さな集落に惹かれ、一気に降りて行った。
集落の真ん中を走る狭い舗装道路に出た。

すべてが周りの景色に溶け込んでいるような場所だった。
弾む息を整え、耳をそばたてた。
人の声ばかりか、犬や猫の鳴き声もまったくない。
光と風だけが目立ち、すべてが抹殺されたような澱んだ
空気をかき混ぜている。
所々に、たわわに実った柿だけが青空に映えていた。

急勾配の舗装道路をゆっくり歩いて行った。
点在する両脇の家々を一軒一軒覗いてみる。
「こんにちは!‥‥誰かいませんかぁ?」
返事はない。

集落のなかを流れる川のせせらぎだけが異様に響く。
まるで、生きし者残らずUFOにでもさらわれてしまったような‥‥。
あまりの不気味さに、後ろを振り向かず、元来た尾根を這い上がり、
車まで戻った。

その集落が近い将来、下流のダム建設によって
沈みゆく運命を知ったのはしばらくしてからだった。

by don-viajero | 2009-11-18 20:04 | 超短編小説 | Comments(0)
2009年 09月 23日

超短編小説 『赤い糸』

私と彼とは、生れたときから『赤い糸』で
結ばれているんじゃないかと思っていた。

あるグループのコンサートで隣り合わせたのが
きっかけ。
-運命の出会いってあるんだ!-
ず~っとそう思っていた。
あらゆる趣味やフィーリング、音楽まで
すべてが合っていた。
ただ一人のロックミュージシャンを除いては‥‥。

いろいろ手を尽くし、私の大好きなそのミュージシャンの
コンサートチケットを二枚手に入れた。
どうにかして彼をあの魅力の虜にさせたかった。

不承不承の彼を連れ立って行った。
会場はものすごい数の観客でいっぱいだった。
人波に押され、私は彼とはぐれてしまった。
必死になって、私と彼との小指に結ばれて見えない
『赤い糸』を頼りに探した。

ところが、どうにかして『赤い糸』を手繰り寄せた先は、
カッコいい見知らぬ男性の小指に繋がれていた。

-新しい恋が始まるのかもしれない?!-
真夏の夜のコンサートだった‥‥。

by don-viajero | 2009-09-23 19:50 | 超短編小説 | Comments(0)
2009年 09月 17日

私的解釈 『一週間』

日曜日に市場へ出かけ、
-食料や足りなくなった生活品、ついでに-
糸と麻を買ってきた。
-ばぁさんが逝ってしまってから
 針仕事は自分でやっている。-

月曜日にお風呂を焚いて、
-入ろうとしたが、寝てしまった。-
火曜日にお風呂に入る。
-一週間分の垢を洗い流す。気持ちがいい。-

水曜日に友だちが来て、
-遥か遠方より友来たる。
 久しぶりに人間との会話ができた。
 泊まってもらった。
木曜日は送っていった。
-また、一人暮らしが始まる。寂しいな‥‥。-

金曜日は糸巻きもせず、
-午前中は近くの湖で釣り。
 午後はじっくり本を読んだ。-
土曜日はおしゃべりばかり。
-と言っても、愛犬相手のおしゃべりだ。-

友だちよこれが私の
-寂しい年金暮らしじゃよ。-
一週間の仕事です。
-仕事とは呼べない生活だ‥‥。-

テュラ テュラ テュラ テュラ テュラ テュララ
テュラ テュラ テュラ テュ ラ~ラ~

こんな生き方、あってもいいかな?

by don-viajero | 2009-09-17 21:24 | 超短編小説 | Comments(0)
2009年 08月 10日

『珍説・桃太郎』

昔、昔、あるところにたいそう金持ちの家庭で、
何不自由なく育った桃太郎という者がいた。

一方、そのころ鬼ヶ島に拠点を構え、
青鬼のユキオ、赤鬼のイチロウを首領として、
金持ちから金品を盗り上げては、
下々の貧しい者たちに、その金品をばら撒くという
義賊団が勢力を伸ばしていた。

桃太郎は供を連れ、逆に彼らの金品を
奪い取ろうとさもしい企みを抱いていた。

決戦を控えた朝、鬼ヶ島を対岸に見据え、
話し下手の桃太郎は幇間の猿・ノブテル、
キャンキャン騒がしい犬のヒロユキ、
ケ~ンケ~ンとご主人様のオウンゴールを空から
見張っていたキジのタケオを前にして、
檄文を読み始めた。

「我が可愛い僕たち!金持ちというものは
 あくまでも踏襲(ふしゅう)しなければならない!
 近頃、頻繁(はんざつ)にその金持ちから
 盗みを働く輩がいる。
 これは、未曾有(みぞうゆう)の事件であり、
 適切な措置(しょち)をしなければ、
 世界が破綻(はじょう)してしまい、
 実体経済(じつぶつけいざい)がおかしくなる!
 すでに彼らの行為で世の中は低迷(ていまい)しておる。
 詳細(ようさい)は昨晩、説明した通りだ!
 彼らを打ち破ることは焦眉(しゅうび)の急である。
 この戦い、順風満帆(じゅんぽうまんぽ)で
 完遂(かんつい) しようではないか!
 皆の者!怪我(かいが)をせず、傷跡(しょうせき)を
 残さぬよう、しっかり働いてくれたまえ!!!
 エイ! エイ! オー!!!」

供の者たちは、いつしかどこかへ消え去ってしまい、
一人空しく、桃太郎のしゃがれた声だけが
波間に響いていた‥‥。
 

by don-viajero | 2009-08-10 12:35 | 超短編小説 | Comments(2)
2009年 08月 09日

『派遣教師』

私は派遣教師。

今日は忙しい一日になりそうだ。
出張授業であちこち回らなければならない。
たくさんの資料を抱え、
朝食抜きで、慌てて出かけた。

始めに訪問したのは「メダカの学校」。
川のなかをそっと覗いてみたら、
メダカさんたちはみんなでお遊戯していた。
持ってきたお遊戯帳は必要なくなったみたいだ。

次に訪れたのは「スズメの学校」。
先に来ていた先生がムチを振り振り、チイパッパ。
生徒のスズメは輪になってお口をそろえて、チイパッパ。
これだけ厳しく教えていれば私の出番はない。
音楽帳もいらなくなった。

最後に行ったのが「げんこつやま」。
持ってきた資料も少なくなり、
お腹も満たしてきたので、楽チンで登れた。

子だぬきさんたちに、おっぱいを飲ませてあげたら、
寝てしまい、起きたら、抱っこしておんぶして
また明日!メェ~!!!

by don-viajero | 2009-08-09 09:18 | 超短編小説 | Comments(0)
2009年 07月 22日

超短編小説 『野球少年』

「こんにちは!」
元気な声が響き、玄関を開けると、野球帽を被った、
この辺りでは見かけない少年が立っていた。

「お父さんが、これをおじさんちに持っていってくれって!」
「なにかな?」
宛先も差出人も書かれていない封書を渡された。
「それじゃぁ、僕、ちゃんと渡したヨ!帰るネ!」
「チョット‥、待って!君のお父さんって‥?」
少年はあっという間に走り去ってしまった。
その後ろ姿に見覚えが‥‥。

真っ白な封書を開けてみた。
それは遥か昔、少年野球に没頭していたころの
私が書いた『僕の夢』という題の作文だった。
-大きくなったら長島さんや王さんのような
 野球選手になる!‥‥-

高校時代、甲子園を目指してやっていた野球。
三年の春、練習試合で致命的な怪我をしてしまい、
悔しい思いのまま、スタンドから喉を嗄(か)らして
応援したチームメイトの活躍。地区の決勝戦で敗れ去った。

しばらくして、再び玄関のチャイムが鳴った。
「ごめんください‥‥。」
頭のなかが混乱したまま、戸を開けると、
白髪に長く伸びた白髭の老人が所在無く立っていた。
「どちらさまですか?」
「あ、そうそう、貴方に一言言いたくて‥‥。」
「なにをですか‥‥?」
「迷いを捨てなさい!それだけです!」
そう言い残し、踵を返し帰って行った。

私は決心した。この数週間悩み続けていた、
少年野球の監督を引き受けることを‥‥。

by don-viajero | 2009-07-22 20:04 | 超短編小説 | Comments(0)
2009年 06月 23日

超短編小説 『同業者』

ゆっくりドアのノブを回してみた。
-あれ?開いている???-

懐中電灯の心細い明かりだけが
揺れるリビングまで、
そう~っと足を運び電気のスイッチを押した。

「ヒッ!」
そこには、包丁を握り締めた男が、
まるで、鳩が豆鉄砲でも食らったような
顔をして立っていた。
「あっ!泥棒だ!」

男は震える両手に包丁を構え、
「か‥金・を・だ・せ!」
「お前さん!なにをそんなに震えているんだ!
 入り込んだ家を間違えたみたいだな!」
「な‥なんだとぉ!」
「俺は現役の刑事(デカ)だし、
 ほれ!そこの賞状やトロフィーを見ろ!
 そんな包丁一本だけで、
 柔道六段を相手にするのか?」
「ヒェ~!!!か‥勘弁してください!
 未遂ですし‥アワワワワワ‥‥。」
と言い終えるが早いか、
男はすばやく走って出て行った。

-まったく、最近のコソ泥は下調べもしないで、
 いきなり忍び込むから困ったもんだよ!-
そう呟きながら金庫のダイヤルを回し始めた。

by don-viajero | 2009-06-23 20:19 | 超短編小説 | Comments(1)
2009年 06月 21日

超短編小説 『おくりびと』

私が5歳にとき、
父が祭りの夜店で買ってくれた亀の「亀吉」。

その父も一昨年、逝った。
父のあとを追うように昨年、母も逝った。
そんな二人を見送った亀吉が
昨日、死んだ。
おそらく大往生なんだろう。
みんなに可愛がられた。

亀吉が我が家に来たときの私と
同い年になった孫娘と一緒に、
頑丈なダンボール箱に入れ、
庭の隅に埋めた。小さなお葬式だ。

「おじいちゃん、死んだ亀吉はどうなるの?」
「そうさなぁ‥‥。
 天国ってとこで楽しく暮らすんじゃないかな?
「ふぅ~ん。」

孫娘は小さな手を合わせ、
「無事、亀吉が天国に行けますように‥‥。」

翌日、孫娘にこう言われてしまった。
「おじいちゃん、亀吉のお墓を掘り返してもいい?」
「どうしてだい?」
「だって、亀吉が無事天国に行ったか確かめたいの!」

by don-viajero | 2009-06-21 06:51 | 超短編小説 | Comments(0)
2009年 05月 14日

超短編パロディ小説 『バイリンガル』

麻生さんの奥さんが猫のタマを抱いて
散歩をしていたときです。

向こうからやってきたご近所の
小泉さんの奥さんに声をかけられました。
「お宅の太郎君、大学卒業して早々にアメリカ赴任ですってね!
 英語は結構喋れるんですか?」
「えぇ、学生時代イギリス留学していましたから‥‥。」
「そう言えば、奥様もお若いころ、
 アメリカにいらしたんですよね!今でも喋れますか?」
「まぁ、少しぐらいの会話でしたら‥‥。」
「あっ、そうそう、旦那さんも長いこと
 ドイツにお勤めしていてドイツ語が堪能でしたわよね!
 お宅は家族揃ってバイリンガルなんですね!
 羨ましいわ!」
「それほどでもありませんことよ!ホッホッホッ!
 さぁ、タマ、おうちへ帰りましょう!」
そう言うと、麻生さんの奥さんに抱かれていた猫が、
「ワン!」と吼えた。

麻生さんの奥さんが立ち去った後、
呆気にとられていた小泉さんの奥さんは、
鴻池の奥さんとバッタリ!
「ねぇ、ねぇ!鴻池の奥様!麻生さんのお宅って、
 皆さんバイリンガルなんですってよ!」
「でもねぇ~、小泉さんの奥様!ここだけの話!
 あの方たちって中学漢字が読めないんですってよ!」
 いやぁねぇ~!」
「そう言えば、最近お宅の旦那さんが元気に熱海へ行ったのに、
 入院したんだって言ってましたわよ!」
「あの方たち、日本語までもバイリンガルされるんですわね!」
「‥‥???}

by don-viajero | 2009-05-14 21:21 | 超短編小説 | Comments(2)
2009年 04月 25日

超短編パロディ小説 『みの虫国物語』

あるところに『みの虫』の国がありました。
以前は平和で何も争いごともなかったのに、
ヨタロウ虫たちとヤイチロウ虫たちが、
国を二分していがみ合うようになってしまいました。
それというのも、どうやらヨタロウ虫の仲間のなかに、
強力な権力を握ったウルシ虫が現れたからです。
漆の毒で気に入らない虫たちを次から次へと、
問答無用にやっつけていくのでした。

そのころ、テレビではモンタという電波芸者虫が大活躍。
まるでヨタロウ虫たちの喋る広告塔のようでもあった。
しかも、彼はとりわけ『みの虫国』の中年女虫たちに、
それは、それは人気がありました。
モンタはテレビでいつもヤイチロウ虫の大沢虫は
「悪い虫だ!悪い虫だ!」と言っておりました。

ある日のこと、大沢虫の幇間(ほうかん=太鼓持ち)
である小久保虫が逮捕されてしまいました。
内緒で甘い蜜を吸っていたからでした。
そんなことは、どの虫たちも隠れて、そっとやっていることなのに、
いきなり逮捕されたのです。

さて、裁判が始まりました。
つい最近、裁判員制度を導入した『みの虫国』では、
裁判員にモンタとおばちゃん虫四匹が選ばれました。
実はおばちゃん虫たちはモンタの大ファンだったのです。
いままでなら罰金程度で済んだはずなのに、
小久保虫は禁固一年の実刑判決が下されました。

モンタとおばちゃん虫たちは大喜びしました。
そして、ウルシ虫は益々強大な権力を握り、
『みの虫国』大統領より偉くなってしまったのでした。

はたして、以前のような平和で穏やかな
『みの虫国』はいつ訪れるのでしょうか‥‥。

by don-viajero | 2009-04-25 20:20 | 超短編小説 | Comments(2)